Monday, May 27th, 2019

THE GRITTI PALACE : RESTORER OF THE SOUL
ヴェネツィアが誇る名ホテル
楽しき、グリッティ パレス

“ネクタル”が神々の酒だとしたら、その酒が杯からあふれる場所は、ヴェネツィアの大運河、
カナル・グランデのほとりである。数々のエピソードに彩られた、名ホテルをご案内しよう。
text wei koh photography rian davidson special thanks to The Gritti Palace

“Ciao, ragazzi, come va? Andiamoa Gritti!”
「チャオ、皆さんお元気ですか? グリッティへ行きましょう!」
 これが熱烈なファンの口にするスローガンだ。グリッティ パレスはただのホテルではない。豊かさと好みがどんどん二極化しつつある世界において、真に優雅な少数の人々が利用する隠れ家なのだ。身体と心と魂を回復させる必要があるとき、グリッティ パレスより強力な蘇生器は存在しない。バー・ロンギ、ヘミングウェイ・スイート、リーヴァ・ラウンジの常連にとって、グリッティ パレスは神々の飲む酒“ネクタル”なのだ。
 ローレン・キング氏に初めてお会いしたとき、私は間もなくヴェネツィアに滞在すると言った。するとキング氏は、眉を上げて「グリッティ?」との言葉を発した。私が肯定した瞬間に、われわれはきっといい友人になれると確信した。キング氏は、「総支配人のパオロ・ロレンツォーニ氏によろしく伝えてね。グリッティは私にとって幸せな場所なの」と付け加えた。
 ハリウッドの名士であり、監督であり、作家であり、世界でも指折りにエレガントな男性でもあるポール・フェイグ氏も、「妻と私は毎年のように大みそかをグリッティで過ごすんだ。新たな1年を迎えるのに、あれ以上の場所はない」と話した。
 ロレンツォーニ氏はTHE RAKEを一種の社交クラブ・マニュアルとし、グリッティの各部屋に置いてくださっている。グリッティは、本誌を創刊する際にインスピレーションとなったヘミングウェイ、サマセット・モーム、エリザベス・テイラー、バート・ランカスターが行きつけにしていた場所だ。そこに本誌が置かれるとは、何と光栄なことだろう。だが最近、私はふと気が付いた。ロレンツォーニ氏の舵取りのもとで実現したグリッティのリニューアルを記事にしたことがないと。そこで威厳あふれる総支配人のお時間を頂戴し、話を聞かせていただくことにした。

求められたのは“変わらないこと”
 彼は懐かしげに含み笑いをすると、こう回想した。
「ある日、スターウッド社から“あなたに新たな冒険を用意しました。ヴェネツィアのグリッティです”と提案されたのです。赴任の目的は、私のノウハウを活用し、世界で最も愛される宿のひとつであるグリッティを修復することでした。当時のグリッティは、やや老朽化した印象になりつつありました。修復は2011年11月4日に開始しました。なぜ改築ではなく“修復”と呼ぶのかというと、私たちはホテルの根本を変えることはしなかったからです。修復を始める前に、私はホテルのお得意様にアンケートをお送りしました。“未来のグリッティにとって一番大切なことは何ですか?”とお尋ねしたところ、全員が“変わらないこと”とお答えになったのです。それはつまり、改築ではなく、敬意をもって修復することを意味しました。しかし実は、その方がはるかに難しいのです。当ホテルの有名なムラーノガラスのシャンデリアをご存じでしょうか? 修復前には、すでにイタリアの安全基準を満たさなくなっていたため、ひとつひとつ分解して配線しなおすことが必要でした。そこで、ムラーノの専門家に送ったのです」

威厳ある佇まいのグリッティ パレス総支配人、パオロ・ロレンツォーニ氏。

修復によって新しく生まれ変わったレデントーレ・スィートのテラス。眼下にはレデントーレ教会を見下ろせるため、この名がついた。250 平米の広々としたテラスだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 28
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