Friday, March 27th, 2020

THE BEST LITTLE SHOP IN THE WORLD

世界で一番の小さなショップ
E.MARINELLA(マリネッラ)

ナポリの老舗マリネッラは、均一化が進むわれわれの時代において、貴重な存在だ。
ウェブサイト“Permanent Style”のファウンダー、サイモン・クロンプトンは、
家族経営の店で朝食をともにするために、目覚まし時計のアラームをセットした……
text simon Crompton
issue10

ナポリのキアイア海岸通り、ヴィットリア広場に面するマリネッラの店先。

 ナポリを初めて訪れたのは、ずいぶん前のことだ。到着したのは夜遅くだった。翌朝、太陽はまだ低かったが、猛暑になりそうな日だった。私は心のなかで、目的地を決めていた。キアイア海岸通りのマリネッラである。

 マリネッラは早朝、午前6時30分にオープンすることで有名だ。創業者のエウジェニオ・マリネッラが、20世紀初頭に、その習慣を始めたのだ。貴族たちは店の周りに集まり、飲み物を飲みながら、店の前のロイヤル・ガーデンで乗馬をする女性たちを褒めそやした。たぶんそこから始まったロマンスも、ひとつかふたつあっただろう。開店時刻はパレルモからの郵便船の到着時間と一致したため、紳士たちは集い、届けられた手紙を読み、朝のニュースについて話し合った。

 エウジェニオの孫のマウリッツィオは、今日もその伝統を守っている。それは素晴らしいことだ。営業時間が長いことで、名声を博している店は他にない。夏のバカンスの時期を除いて(イタリアの他の店がまったく開いていない時刻でも)マウリッツィオはそこにいる。毎朝、6時10分に店に到着し、6時30分にシャッターを開ける。しかし彼は、朝のマリネッラは、ネクタイを売る店ではないという。

「私は、2種類のビジネスを営んでいます。早朝、6時30分から9時の間、人々は会話とおいしいコーヒーを求めてやってきます。ネクタイの販売は二の次です。顧客は友人であり、彼らは自分の家にいるようにリラックスしています。 9時を回ると、クルマを停めて、慌ただしく駆け込んできて、ネクタイを買って行く人々が現れます。人との接触は少なくなり、よりビジネスライクになります」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 33
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