September 2020

MR.NO

俳優:パトリック・マクグーハン
ボンド役を断った男

text frédéric brun

テレビドラマ『秘密諜報員ジョン・ドレイク』で主人公ジョン・ドレイク役を演じるマクグーハン(1964年)。

帽子もスーツも完璧に着こなす マクグーハンはドレイクが使いそうな小型電子機器を想像し、日用品からインスピレーションを得たりするのが楽しいと話していた。彼は帽子も丁寧に選ぶ人だった。あるエピソードでドレイクが帽子を着用してから、彼自身も帽子を愛用するようになった。帽子は高級帽子店のものでなく地味な店のもので、服と同様に独特でありながらも悪目立ちせず、彼らしい落ち着いた趣を添えていた。こうしてドレイクのイメージにおいて帽子は特徴的な要素となり、黒い麦わら製ポークパイハットや、さまざまなトリルビーハットが登場した。彼が着こなしたチェック柄のオーバーコートとも調和していた。

 ドレイクが着用したその他の衣装としては、スタイリッシュなチェック柄のスポーツジャケット、ストライプ柄のブレザー、起毛仕上げのリーファージャケット、スエードのボマージャケットなどが挙げられるが、いずれも実用性を特徴とし、巧みに仕立てられた品であった。ドレイクは当時を生きる男という設定であり、グローバルな現代人。旅行着に採用するのも軽い生地の服で、決して保守的な人物が選びそうな重いフランネルではなかった。

 マクグーハンは非の打ち所のない男らしさを放つとともに、魅力的な存在感を備えていた。スカッシュとウエイトリフティングをしていた彼は、プライベートでは控えめさと現代性を兼ね備えた優雅なスタイルで知られ、心地よいカジュアルな工夫も上手く取り入れていた。マクグーハンについての著作を1965年に出版したイアン・スプロートは、彼を同年のメンズベストドレッサー10人のひとりと評したが、かつてマクグーハンのスタンドインと秘書を務めたジミー・ミラーは、「彼をベストドレッサーへと押し上げたのは、服の品質ではなく彼のその着こなし方だ」と語っている。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 35
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