MR.NO

俳優:パトリック・マクグーハン
ボンド役を断った男

September 2020

text frédéric brun

映画『All Night Long(原題)』(1962年)でドラムを演奏するマクグーハン。

 セイントとは違うジョン・ドレイク役を演じたことを、彼は誇りに思っている。

「僕は照れ屋でなかなか人と打ち解けられず、暴力も嫌いだからね。お気づきのように、ドレイクは決まって暴力を避けようとする。彼はボンドのようなアンチヒーローとは違う。本当に善人なんだ。もしドレイクがボンドと対決したら、ドレイクが勝つだろうね。別にショーン・コネリーを悪く言っているわけじゃない。ドレイクが象徴するさまざまな理想とは正反対の事柄を批判しているだけなんだ」

 自分と同じテーラーを利用する紳士を、彼が批判するはずもない。当時はテレビ番組の衣装の大部分がファッションハウス・グループ・オブ・ロンドンによって供給されていたが、マクグーハンが『秘密命令』で身に着けたスーツは彼の私物であり、ボンドのスーツでも名声を得るテーラー、アンソニー・シンクレアが手がけたものだった。

 鋭い方はお気づきかもしれない。マクグーハンのスーツは、ボンドのスーツと類似したスタイル。フラップポケット付きの2ボタンジャケット、袖口の4つボタンとセンターベント、自然なショルダー、盛り上がった袖山、ドレープ感のあるチェスト、なだらかにくびれたウエストなどが特徴で、トラウザーズには本のインプリーツと裾の折り返しが施されていた。ジョン・ドレイクは6ボタン5掛け型ウエストコートも着用しているが、これも『007/ゴールドフィンガー』(1964年)でのボンドと似ている。マクグーハンは、彼なりの方法でスパイを表現した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 35
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