JAPANESE CUT
世界が注目する
ニッポンの新世代テーラー
July 2019
ニッポンで、イタリアで、英国で。学び場はそれぞれ異なれど、
仕事へのほとばしるパッションは皆同じだ。伝統と引き換えに、
彼らには試行錯誤しながら進化し続ける自由な精神がある。
SARTORIA CICCIO
―サルトリア チッチオ―
世界に認められた新世代の牽引者2015年、青山に自身のサルトリアをオープン。
今や世界で知られる存在となった上木規至氏は、
本場のナポリ仕立てに比肩する実力の持ち主だ。

Noriyuki Ueki / 上木規至1978年生まれ。2003年にナポリに渡り、アントニオ・パスカリエッロとルイジ・ダルクオーレに師事。2006年に帰国後、タイユア タイ内に工房を構える。2015年、青山に自身のサルトリアをオープン。The ArmouryやVilla del Coreaなど、早くから海外での受注会も開いている。
動きが滅法速い。リモコンで軽く早送りしているような感じとでも言おうか。手縫いの軽快なリズムはナポリのベテランサルトそのものだ。単純に強く引っ張って速く縫うだけなら簡単だが、チッチオのように適度な糸のテンションで速く縫うのは至難の業である。サルトの間ではその絶妙なステッチを「プント・フレスコ」と呼んでいるが、彼の仕事はその最上級「プント・フレスキッシモ」と呼ぶにふさわしい出来栄えだ。
加えてチッチオには確固たるハウススタイルがある。ナポリのトップサルトリアがそうあるように、伝統的なスタイルを守りつつ、見事に自分の色を出している。身体を柔らかく包み込む肩と胸回り、やや下がり気味のゴージライン、絞られながらも着るとゆとりを感じるウエストなど、誰が見てもチッチオとわかる優雅さに満ちている。
「Ciccio(チッチオ)」は上木氏のニックネームだ。ナポリでの修業時代、師匠のアントニオ・パスカリエッロ氏がつけた。イタリア語でチッチオの名は「太っちょくん」を意味する一方で、親しみを込めて「かわいい坊や」といったニュアンスも強く含む。治安の悪いスペイン地区に住み、細い身体ゆえ何度も危険に遭遇しながら、家とサルトリアのみの往復生活を送り、帰宅後もひたすら服を縫い続けていた彼のひたむきさに対しての、親方なりの愛情表現だったのかもしれない。
本記事は2016年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 08