February 2024

HOW A PEASANT VILLAGE ROSE UP

セレブのための田舎町グシュタード

 イーグルスキークラブはグシュタード・パレスが食事を手がけており、会員にはギリシャを代表する有力な家系をはじめ、イタリアの貴族、ファッション王のエミリオ・プッチ、若き日のカリム・アーガー・ハーンとその叔父のサドルッディーン・アーガー・ハーンといった、錚々たる面々が名を連ねていた。サドルッディーン・アーガー・ハーンは、国連(ジュネーブ)で仕事をするのに便利な場所にあるグシュタードを気に入るあまり、ホテル兼レストラン兼ナイトクラブの「チェズリー」を手に入れたのだった。

セレブたちの定住化 グシュタード・パレスではモーリス・シュヴァリエを迎えてフォアグラが供されるガラパーティが行われた。新聞社がこれを大々的に報道したことにより、こうしたショーがシーズンの目玉となることが証明された。当時の歌手は、グシュタード・パレスでショーをすることが輝かしいキャリア形成につながると考えるようになり、やがて世界中の人気歌手がここでショーを行うようになったのだ。

 また、セレブたちの定住化も始まった。イーグルスキークラブの代表を務めていたウォリック伯や、学者のジョン・ケネス・ガルブレイス、俳優のデヴィッド・ニーヴンやクルト・ユルゲンス、ヴァイオリニストのユーディ・メニューインといった面々が、町中で頻繁に見かけられるようになった。また、女優のジュリー・アンドリュースは、映画監督の夫、ブレイク・エドワーズとともにグシュタードに定住し、シャレーの切妻をイルミネーション装飾するという流行を生み出した。

 当然、このリゾートを大衆文化へと押し上げたのはエドワーズだった。映画『ピンクパンサー2』(1975年)のロケ地をグシュタードとし、このリゾートの常連だったピーター・セラーズを主役に抜擢した。作品に登場するおしゃれなナイトクラブは、グシュタード・パレスの奥にある「グリーンゴー」である。アルプスの「アナベルズ」ともいえるここは、2021年には50周年を迎える。

issue10

犬を散歩させるギュンター・ザックスとブリジット・バルドー(1967年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 33
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