Tuesday, June 30th, 2020

FIRE in his BELLY

怒りのビリー・ジョエル

text james medd

 このようにビリーがさまざまな形で表現できるのは、ピアノで作曲しているからかもしれない。彼は本当にポップミュージックに対して好奇心が強いが、一方で常に自身の生い立ちに葛藤を抱え、矛盾した衝動と異常な行動力を持っていた。もともと彼は、4歳でクラシック・ピアノを始めた天才児だった。父はドイツのニュルンベルク出身のユダヤ人で、才能あるクラシックの音楽家。母はイギリスの長い伝統を持つユダヤ人の家庭の娘である。ちなみに異母兄弟の弟は、ヨーロッパで著名な指揮者となっている。

劣等感からの怒りと叫び ビリーはNYのスラム街、サウス・ブロンクスで生まれ、ロング・アイランド郊外のヒックスヴィルで育った。チェスとピアノを愛する少年だったが、父親が息子たちをおいてウィーンへ出ていくと、ビリーはレザージャケットを羽織り、シンナーや万引きに興じる不良少年になってしまった。

 ユダヤ人であることでいじめにあった彼は、自衛のためにボクシングを始めたが、鼻を折られてやむなく断念。万事がうまくいかなかったが、彼は幸運だった。時は60年代、ポップミュージックが彼を救ったのだ。テレビでビートルズを見た彼は、自分のような人間のための場所があることに気づいた。1987年のインタビューでこう回想する。

「それこそ私が求めていたものだった。ビートルズは決して生まれながらのスターではなかった。ちょっとクールを気取った、労働者階級の出身だったんだ」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 34
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