Charged Affairs

外交官ハレンチ物語

August 2017

text nick scott

ヴィク・オリバーとマーガレット・ミッチェル、マーゴット・アンダーソン(マンチェスターのパレス・シアターにて、1951年)

世界一のプレイボーイ 世界を股にかけた外交官の艶聞を語るなら、ドミニカの外交官ポルフィリオ・ルビロサに触れないわけにはいかない。親しい友人たちから「ルビ」という愛称で呼ばれた彼は、戦後のジェットセッターの中でもひときわ目立つ存在だった。彼は、カリブの小国を牛耳る独裁者のために働き、独裁者の美しい娘は17歳でルビと出会って最初の妻になった。

 身長は177センチ程度で、見るからに中産階級の出身にもかかわらず、世界一裕福な女相続人から王妃、伯爵夫人、そしてエヴァ・ガードナーやジェーン・マンスフィールド、エヴァ・ペロンといった名だたる美女まで、合計すれば4桁はいこうかという女性たちが、競って彼に抱かれたのはなぜだろうか?

 彼は生まれつき裕福というわけではなかった。ナチスの迫害から逃れるユダヤ人に、ドミニカのビザを売って金儲けをしようとしたこともあれば、宝石商から委託された18万ドル相当の宝石を紛失し、スナイパーに奪われたという眉唾ものの言い訳をしたこともある。では、ルビにはどんな魅力があったのだろうか?

 そのヒントは、彼に付けられたニックネーム、「Toujours Pret(=いつでも臨戦態勢)」にある。またパリのとあるレストランでは、スタッフや常連客が巨大なペッパーミルを「ルビロサ」と呼んでいた。これは、伝説のプレイボーイが胡椒を好んでいたからではない。

 トルーマン・カポーティは『叶えられた祈り』という未完の小説で、ルビの剛刀を「長さ11インチもあるカフェオレ色の重りのようで、男性の手首ほどの太さがある」と描写した。どうやって知ったのかはわからないが。

 一物で壁のしっくいを剥がすことができたという伝説や、無敵のヒット率を誇る一方で、ルビのライフスタイルもまた華やかだった。

 ハロルド・ロビンスの大衆小説『冒険に賭ける男』に登場するロマンティックなヒーローのモデルになったといわれるルビは、ポロを楽しみ、B-25爆撃機を操縦し、フェラーリでル・マンに出走した。

 冒険心に満ちた彼は1952年夏、ドミニカ共和国の沖合に財宝が沈んでいるという噂を聞きつけて、急ごしらえの探検隊を結成。だがメンバーの多くは、到着から1週間もたたないうちに飲酒行為で逮捕されてしまったため、お宝の探索には至らず、嵐に遭って船体に25万ドル相当の被害を受けただけで終わった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 17
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