August 2021

AMAZING GRACE

アメイジング グレース・ジョーンズ

text nick scott

1980年6月、アルバム『ウォーム・レザーレット』のプレミア・パーティでのグレイス・ジョーンズ。

 1980年代初頭にディスコ・ミュージックが廃れていく中、グレイスはレゲエ、ファンク、ポストパンク、アートポップを取り入れた新しい音楽スタイルを確立した。

 1980年にリリースされたアルバム『ウォーム・レザーレット』は、古いものと新しいものを融合させたイマジネーション豊かな作品だ。ジャマイカの巨匠スライ・ダンバーやロビー・シェイクスピアとコラボレーションし、ロキシー・ミュージックの “ラヴ・イズ・ザ・ドラッグ”のカバーが光っている。個人的なお気に入りは、ジャック・イジュランの曲『パー』を再解釈した一曲で、レゲエとフレンチ・バラードを絶妙にブレンドしていた。

 グレイスの次のアルバム『ナイトクラビング』(1981年)は、一般的に彼女の最高傑作と考えられている。ビル・ウィザーズの『ユーズ・ミー』のようないつもの派手なカバーソングもあったが、その他の曲も幅が広く、プリンスのようなスピーク・ソング『ウォーキング・イン・ザ・レイン』、アンセム的なエロティシズムを感じさせる『プル・アップ・トゥ・ザ・バンパー』、そして切ないアンニュイな曲『アイヴ・ダン・イット・アゲイン』がミックスされている。

 さらに実験的な作品としては、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのプロデューサー、トレヴァー・ホーンとのコンセプト・アルバム『スレイヴ・トゥ・ザ・リズム』(1985年)がある。このアルバムは、タイトルとなったひとつの曲を、8つの異なる解釈で展開しており、フランスの小説家レーモン・クノーの『文体練習』を音楽的にアレンジしたものだ。冒頭の『ジョーンズ・ザ・リズム』では、英国人俳優イアン・マクシェーンのナレーションが挿入されている。エコーや台詞の断片が散りばめられた、ドリーミーなサウンドスケープだ。

 グレイスは映画界においても、ポップでキッチュな存在感を示し、大いに活躍した。アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『キング・オブ・デストロイヤー/コナンPART2』(1984年)に、山賊戦士ズラとして出演した。最も有名なのは、1985年のジェームズ・ボンド映画『007 美しき獲物たち』のメイ・デイ役で、クリストファー・ウォーケン扮する大悪党マックス・ゾリンの子分を演じた。ジムのマットの上でゾリンとスパーリングをし、次の瞬間にはパラシュートとスピードボートでパリのロジャー・ムーアから逃れる(ボンド映画の中でも最も楽しいチェイスシーンのひとつ)など、グレイスの演技は実に魅力的だった。

1981年のアルバムカバー『ナイトクラビング』。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 40
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