April 2020

ALL in his STRIDE

ひとつを極める、“アンブロージ”

ナポリのテーラー、サルヴァトーレ・アンブロージ氏はただのトラウザーズ職人ではない。
彼は顧客の寸法、姿勢、立ち方、歩き方を解釈する非凡な才能により、
1点1点が着る人にしっくり感をもたらす仕立てを実現している。
text nick scott photography james holborow

Salvatore Ambrosi & Antonio Ambrosi / サルヴァトーレ&アントニオ・アンブロージナポリにて代々トラウザーズ作りを生業とする一家の父と息子。サルヴァトーレ・アンブロージ氏(右)と父アントニオ氏(左)。現在は1980年生まれのサルヴァトーレ氏が世界各国を飛び回り、トランクショーなどで活躍している。ナポリのキアイア通りに面したアトリエにて。

 アップル創業者、スティーブ・ジョブズは、「すべてをやろうとするな。ひとつのことをうまくやれ」という言葉を遺した。私が思うに、この教義を最大限に体現している人物は、シリコンバレーから6,350マイル離れた場所にいる。

 彼が日々腕を振るうその場所は、洗濯物が頭上を覆う、迷路のようなスペイン人地区の路地に位置している。ナポリの2大テーラーリング地域のうち、同地区は華やかさでは劣るものの、職人技がもたらす名声では引けを取らない。サルヴァトーレ・アンブロージ氏は、形状、耐久性、ディテール、そしてドレープという点において、最高級のトラウザーズを生み出す一族の4代目だ。

 著名人、実業家、アラブの王子たちが、1着のトラウザーズを誂えるために世界各地からやってくる。その魅力は何だろう?

採寸は、サッと終わる。 まず挙げられるのが、サルヴァトーレ氏のテーラーとしての能力、つまり数十年にわたって磨いてきた才能である(彼は子供時代に見習いを始めた)。彼はもちろん巻き尺を使うのだが、それを顧客のウエストやお尻、脚にサッと巻きつけながら、あっという間に採寸してしまう。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 32
1 2 3 4 5 6

Contents