ひとつを極める、“アンブロージ”

裁断に向けて生地に印をつけるアントニオ氏。

　サルヴァトーレ氏の個人的なスタイルの好みは折衷的だ。

「私はスパッラ・カミーチャ（シャツのような肩）が好きですが、靴は英国式が好みです。より現代的ですので。すべてをナポリ式にする必要性は感じません」

　これは彼自身のワードローブのみならず、工房にも当てはまる哲学だ。彼の服は典型的なナポリ様式（肩に毛芯を用いず、胸ポケットをバルケッタ［小舟］型にしたスタイル）とは限らず、それをより国際的かつ今日的に解釈したスタイルだからだ。

　そのため彼は、自分の仕立てる服をそのまま“アンブロージ式”と形容することを好む。