GRACE PERIOD
【追悼】エリザベス女王とその生涯
September 2022
本来なら女王ではなかった
先々代国王のエドワード8世(ウィンザー公)のスキャンダルがなければ、エリザベスはスカーフと競走馬が好きな、ちょっと注目されるロイヤル・ファミリーの一員に過ぎなかっただろう。
しかしエドワード8世は祖国よりもウォリス・シンプソン夫人への愛を選び退位した。彼は離婚歴のあるアメリカ人女性と、たくさんの高価なワードローブと戯れるために王位を投げ出したのだ。その結果、弟のジョージ6世は望まぬ王冠を被ることになった。彼は第二次世界大戦のストレスで大量に喫煙し、56歳で亡くなった。そのため当時25歳だった長女エリザベスが女王として即位した。70年もの長い間、彼女はその地位に留まった。
2022年は、女王陛下のプラチナ・ジュビリー(戴冠70周年)であると同時に、彼女の伯父エドワード8世の没後50周年にあたる年だった。英国の歴史上、これほど長い在位期間を祝ったことはない。現代では何もかもが早く移り変わるので、彼女の在位期間はより長く感じられたのだろう。それこそが女王をこれほどまでに印象深い存在にしていたのだ。
女王は英国の歴史の縮図であった。A.N.ウィルソンがその優れた著書『The Queen』の中で次のように述べている。
「過去千年間がいかに激動的であろうと、家系がいかに結び付き、もつれようと、女王は(あなたがその事実を認めるかどうかは別として)ウィリアム征服王(1066~1087年)の系譜を継ぐ者なのだ」
そしてこう付け加えている。
「女王がウェストミンスター寺院で戴冠式を行ったとき、彼女はまさに過去のマントを纏ったのだ。今の時代になっても、その儀式は見る者に感動を与える」
忘れてはならないのは、女王が戴冠したのは、彼女の祖先が創設した宗教の建物内だったということだ。彼女は“信仰の擁護者、英国国教会の最高統治者”という称号も持っていた。戴冠式でカンタベリー大主教から塗油されたとき、彼女は次のような宣誓をした。
「英国国教会を維持し、保存する。その教義、礼拝、規律、統治を法律に基づいて、イングランドで確立されたものする」
そう、彼女は自分自身の宗教を持っていたのだ。
女王の半生を扱った多くの記事、書籍、ドキュメンタリー、ドラマ、映画があるにもかかわらず、女王は謎めいた存在であり続けた。カンタベリー大主教のロバート・ランシーは、「私は彼女を完全に理解することはできない。彼女は秘められた存在なのだ」と語っている。
女王の誕生日を祝したセレモニー「トゥルーピング・ザ・カラー」で、フィリップ王配、チャールズ皇太子と。女王の本当の誕生日は4月21日だが、祝典は6月に行われる(バッキンガム宮殿、1980年)。