GRACE PERIOD

【追悼】エリザベス女王とその生涯

September 2022

英国エリザベス2世女王陛下が、2022年9月8日、96歳にて崩御された。

戴冠後70年間の長きに亘り、彼女はその威厳、神秘性、まっすぐな人間性を保ち続けてきた。

「開かれた王室」を目指し、国民に愛されてきた女王の生涯を振り返る。

 

 

 

text NICK FOULKES

 

 

 

エリザベス・アレクサンドラ・メアリー・オブ・ウィンザー

1926〜2022年。36年、父のアルバート王子が、兄であるエドワード8世の退位を受けて、ジョージ6世として即位。47年に、フィリップ・マウントバッテンと結婚、4人の子供を出産した。52年に国王ジョージ6世は崩御し、25歳という若さでエリザベス2世として英国女王に即位。2022年に、戴冠70周年(プラチナ・ジュビリー)を迎えた。同年9月8日崩御。

 

 

“悪魔の病気といわれる病は

よき王が行われる

奇跡の御業によってのみ癒やされる。

イングランドに来てから、

何度となくこの目で見た。

どのように天の力を借りるのかは、

王のみが知っている。

全身腫れ上がり、うみただれ、

見るも無残な姿となり、

医術では手の施しようがない病人でも

王が聖なる祈りを唱え、

首に金貨をかけると、

たちまち治ってしまうのだ。

この神から授けられた力は、

王位を受け継ぐ歴代の王に

脈々と伝えられるのだという。

加えて王は、予言の力までお持ちなのだ。

神の与えられた恵みの力が

王座を祝福しており、

王は神のごとく敬われているのだ”

 

 

 

 この言葉は、『マクベス』第4幕で、登場人物のひとりマルコムが語ったものである。この“よき王”とは、エドワード懺悔王(1004年頃~ 1066年)のことだ。イングランドのアングロサクソン系最後の君主である。王が触れれば、病気を治癒できるという信仰は、17世紀初頭まで続いた。

 

 シェイクスピアがこの戯曲を書いたのは、王位についていた人物に気に入られるためでもあった。イングランドのジェームズ1世(1566 ~ 1625年)である。スコットランドの6番目の支配者で、バンクォウ(スコットランド王の祖先)の子孫といわれている。

 

 当時、王による“マジックタッチ”は単なる迷信に留まっていなかった。事実、ジェームズの前任であるエリザベス1世(1558~1603年)は、ローマ教皇庁の勅令によって破門されたとき、神が魔法の手を取り上げていないことを示し、自分の支配の正当性を証明する必要に迫られた。証明できなければ投獄される可能性もあったのだ。

 

 英国の立憲君主制はそういった過程を経て成立してきたものであり、それが21世紀まで続いている。もちろん現在では、王や女王が神から力を与えられ、病気を治す超能力を持っていると信じている人はいない(マーベル映画の世界では別だが)。

 

 

 

父親と馬に乗るエリザベス。彼女は早くから乗馬の才能を発揮した(1935年)。

 

 

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