WHALE PENIS LEATHER BOOTS
クジラのペニス革ブーツを作る
September 2020
このレア中のレアなレザーを使って、1足のブーツを作ってみた。その詳細なリポートをお届けする。
表革であるにもかかわらず、その表面は毛羽立っている。スエードに比べ毛足が長く、その質感はまるでかわいいぬいぐるみのようだ。これがまさか、クジラのペニスの革で出来ているとは、誰も思わないだろう。
もう20年以上も前の話になるが、靴職人・山口千尋氏の工房を訪ね、のべ3日間にわたり、1足の靴ができるまでを密着取材したことがある。そのときさまざまな靴の話をしたが、私が「一番珍しい革は何ですか?」と聞いたとき、山口氏は「クジラのペニスの革」と答えたことをずっと覚えていた。それまでそんな革があることを知らなかったし、何よりその存在のインパクトが、頭にこびりついて離れなかったのだ。そして今回、山口氏と再び話す機会があり、「まだ残っている」と言うので、思い切って1ペア作ってみようと決心したのだ。
山口氏がその革を入手したのは、もう30年以上前、場所はイタリアのマーケットだったという。正確な値段は覚えていないが、非常に高価だったらしい。靴職人としての40年間のキャリアの中で作ったのはたった7〜8足程度。珍しいといわれる革、ウミガメ、ゾウ、ヘビ類、トナカイ、そしてロシアンカーフなどと比べても、レア中のレアである。もちろん現在では、入手することは不可能だ。
その昔は、クジラおよびそのペニスの革というのは、量こそ少ないものの、流通はしていたらしい。有名な話だと、ギリシアの海運王アリストテレス・オナシスが、自らの豪華ヨット“クリスティーナ号”船内のバー・スツールに、クジラのペニスの革を張っていたそうだ。
新しいところだと、2009年にロシアのメーカーが、1台1億3000万円の豪華SUVの内装を、ペニスを含むクジラ革で仕上げようとしたことがあったらしい。しかしこれは、環境団体などの反対により中止になったという。
本記事は2020年7月27日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 35