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世界を手にした実力派俳優:アル・パチーノ

June 2019

text ed cripps

ジョニー・デップと共演した『フェイク』(1997年)。

 こうした70年代が繊細な知性の時代だとすれば、80年代は激情の時代だった。公開当初は酷評された『スカーフェイス』(1983年)で演じたのは、キューバの麻薬王トニー・モンタナ。下品な口調と激しい怒りで安っぽい男らしさを見事に表現し、コカイン中毒になる様を演じた。下品ではあるが、トニー・モンタナは少なくとも自分に正直である。「あんたにはこうなりたいというガッツがない」「あんたには俺みたいなやつが必要だ」と高級レストランで怒鳴る。

 アル・パチーノの型にはまらない演技スタイルは、出演作のクライマックスを見ればよくわかる。血しぶきが飛び散る『スカーフェイス』のラストシーンと『ゴッドファーザー PART II』の物思いに沈んだマイケルを比べてみてほしい。同じ犯罪者でありながらあまりにも好対照である。

悲願のオスカー獲得 90年代以降はメロドラマや上質なスリラーに出演した。『カリートの道』(1993年)では激しい怒りをやや誇張しすぎていたが、若い頃の繊細さを見事に取り戻していたのが『摩天楼を夢みて』(1992年)という映画だ。戯曲を映画化した珍しい作品だが、アル・パチーノにジャック・レモン、アレック・ボールドウィン、エド・ハリス、ケヴィン・スペイシーというキャスティングであれば、失敗するはずはないだろう。

 そして『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)では、盲目で酒浸りの退役軍人、フランク・スレード中佐を演じ、ついにアカデミー主演男優賞を獲得した。型破りで尊大なキャラクターは、無作法で軽薄なトニー・モンタナに匹敵するほど魅力的だった。稀代のカメレオン俳優、アル・パチーノがオスカーを獲るのは当然である。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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