CELLULOID STYLE: THE GODFATHER

銀幕のスタイル、その白眉 『ゴッドファーザー』

April 2022

不朽の名作映画『ゴッドファーザー』(1972年)で、アル・パチーノが演じた主人公マイケル・コルレオーネのスタイルは見事である。

アイビーリーグで教育を受けた戦争の英雄から、冷酷無比な組織犯罪のボスへの転身、成功、そして悪夢を象徴している。

 

 

by CHRISTIAN BARKER

 

 

 

アル・パチーノは『ゴッドファーザー』(1972年)で、ピークドラペルのダークウール製スリーピース・ハイボタン・スーツに、糊の効いた白いシャツを合わせている。

 

 

 表向きには、マフィアの話かもしれない。しかし、単なるギャング映画ではない。フランシス・フォード・コッポラ監督の名作『ゴッドファーザー』は、“ファミリー”の物語である。3部作の第1部で、アル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネが最初に登場するシーンでは、彼は第二次世界大戦から帰還したばかりの軍服に身を包んだ英雄的兵士である。しかしやがて映画の中で父親へと成長し、ついにはファミリーの長である“ゴッドファーザー”になるのだ。

 

 衣装を担当したのは、ハリウッドで数々の賞を受賞しているコスチューム・デザイナー、アンナ・ヒル・ジョンストンだ。アル・パチーノが映画の中で身に着けたさまざまなファッションは、恵まれた大学教育を受けた純真な青年が凶悪なマフィアのボスへと不本意ながらも変化していく様子を見事に表現している。

 

 

 

 

 映画の冒頭、マイケルの妹コニーの結婚式で、マイケルは白人WASPのガールフレンド、ケイを連れて軍服姿で登場する。マイケルの父ヴィトー・コルレオーネは、スリーピースのフォーマルウェアに花柄のブートニエールをつけたフォーマルな装いで登場する。しかし映画の後半では、シチリアの田舎出身の老紳士にふさわしく、土臭いツイーディで素朴なものとなる。

 

 ニューヨークで裕福に育ち、一流大学に通ったマイケルは、より都会的な趣味を持っている。父親が暗殺されかけて入院したとき、彼は高価そうな茶色のオーバーコートを着て、ギャングに扮したパン屋のエンゾと一緒に、病院の前に陣取り父を守った。その後、彼がコートの下に何を着ていたかが映し出される。茶色のコーデュロイのジャケットにコントラストの効いたスラックス、ストライプのネクタイにオックスフォードのコットン製ボタンダウンシャツである。兄のソニーが「アイビーリーグの素敵なスーツ」と表現するような出で立ちだ。

 

 マイケルが父親の射殺事件の犯人である麻薬王ソロッツォと、その息のかかった悪徳警官マクラスキーを殺害するシーンがある。その時の彼は、シャツとネクタイはそのままだが、コーデュロイ・ジャケットではなく、グレイフランネルのスリーピースを着用している。善良なアイビーリーガーと、凶悪なコーザ・ノストラの中間を行くようなスタイルだ。微妙な変化ではあるが、それは彼の行きつく先を示唆している。それから南イタリアに潜伏することになったマイケルは、シチリアの田舎町の装いに身を包む。フラットキャップにゆったりとしたバンドカラーのシャツ、ウエストコートは、彼のシティボーイとしての出自を示唆するピンストライプ柄だ。

 

 


マイケル・コルレオーネと新婦アポロニア・ヴィテッリ・コルレオーネ。アル・パチーノ演じるマイケルは、黒のダブルブレステッド・スーツに、スリムな黒のネクタイ、白いポケットスクエア、花柄のブートニエールを身に着けている。

 

 

 

 シチリアの美女アポロニア・ヴィテッリとの結婚式のために、マイケルは当然のことながらタキシードではなく(昼の式だ)、黒いダブルブレステッドのスーツに白いシャツ、細い黒いネクタイ、白い花のブートニエールを身に着ける。アポロニアが自動車爆弾で殺害され、兄のソニーも全身にマシンガンの弾を打ち込まれて残酷に殺された後、マイケルはアメリカに戻り、ケイと結婚して子供をもうける。そしてファミリーの後継者として、彼の肩にさまざまな重圧がかかってくる。その頃には、ほとんどグレイのビジネスライクなスリーピースしか身に着けていない。

 

 父のヴィトーは引退し、カーディガンを着るようになる。一方、マイケルはギャングの定番であるホンブルグハットを被るようになる。そしてライバルのボスたちを一掃して、ファミリーの勢力を伸ばすのだ。グレイのダブルスーツに黒と銀のストライプタイでメフィスト風に装ったマイケルは、甥の洗礼式でゴッドファーザー(名付け親)として「サタンとそのすべての働きを放棄する」と宣誓する。しかし同じ瞬間に、部下たちに冷酷な殺人を行わせているのだ。

 

 ラストシーンでは、ネクタイを緩め、ジャケットを脱いでサスペンダー姿になる。そしてスーツを着たギャングたちが、ボス中のボス“ゴッドファーザー”になった彼に忠誠を誓いにやってくる。そのシーンは実に印象的だ。よくあることだが、その場で最もドレスダウンした男が、実は最も権力を持っているのである。

 

 冒頭で述べたように、『ゴッドファーザー』は単なるマフィア映画ではない。この映画は自分に責任を押し付けられ、家族の面倒を見るために変化し、適応し、妥協し、やりたくないことをやらざるを得なくなった男の物語である。たとえあなたが“ゴッドファーザー”でなくとも、きっと共感できるはずだ。彼はただの父親だったのだから。