Monday, June 17th, 2019

THE WORLD IS YOURS
世界を手にした実力派俳優

「知性」から「激情」の演技へ
 マーロン・ブランドが『ゴッドファーザー』でアカデミー賞の受賞を拒否したことは周知の通りだが、アル・パチーノもまた辞退したことはあまり知られていない(主演男優賞に輝いたブランドより演技時間が長かったにもかかわらず、助演男優賞にしかノミネートされなかった)。実際、アル・パチーノは演じた役柄と同じように反体制派であった。
 そんな彼の真骨頂は、70年代初頭の米国アートシアター系作品、中でもシドニー・ルメット監督とタッグを組んだふたつの映画の演技にある。『セルピコ』(1973年)では汚職警官に立ち向かい、『狼たちの午後』(1975年)では、恋人の性転換手術代を稼ぐために銀行強盗をする一味の中で、予想外に優しく政治意識の高い男を演じている。どちらも怒り、落ち着き、ユーモア、大胆さや弱さといったあらゆる側面での演技が素晴らしく、知性あふれるマイケル・コルレオーネに並ぶ当たり役となった。
 こうした70年代が繊細な知性の時代だとすれば、80年代は激情の時代だった。公開当初は酷評された『スカーフェイス』(1983年)で演じたのは、キューバの麻薬王トニー・モンタナ。下品な口調と激しい怒りで安っぽい男らしさを見事に表現し、コカイン中毒になる様を演じた。下品ではあるが、トニー・モンタナは少なくとも自分に正直である。「あんたにはこうなりたいというガッツがない」「あんたには俺みたいなやつが必要だ」と高級レストランで怒鳴る。
 アル・パチーノの型にはまらない演技スタイルは、出演作のクライマックスを見ればよくわかる。血しぶきが飛び散る『スカーフェイス』のラストシーンと『ゴッドファーザー PART II』の物思いに沈んだマイケルを比べてみてほしい。同じ犯罪者でありながらあまりにも好対照である。

悲願のオスカー獲得
 90年代以降はメロドラマや上質なスリラーに出演した。『カリートの道』(1993年)では激しい怒りをやや誇張しすぎていたが、若い頃の繊細さを見事に取り戻していたのが『摩天楼を夢みて』(1992年)という映画だ。戯曲を映画化した珍しい作品だが、アル・パチーノにジャック・レモン、アレック・ボールドウィン、エド・ハリス、ケヴィン・スペイシーというキャスティングであれば、失敗するはずはないだろう。
 そして『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』(1992年)では、盲目で酒浸りの退役軍人、フランク・スレード中佐を演じ、ついにアカデミー主演男優賞を獲得した。型破りで尊大なキャラクターは、無作法で軽薄なトニー・モンタナに匹敵するほど魅力的だった。稀代のカメレオン俳優、アル・パチーノがオスカーを獲るのは当然である。
 その後はロバート・デ・ニーロとの初の共演シーンが実現した『ヒート』(1995年)や『フェイク』(1997年)、『インサイダー』(1999年)、そして『インソニア』(2002年)など、ダークな大人のスリラーに次々と出演した。
 脂の乗った時期には『地獄の黙示録』や『スター・ウォーズ』のハン・ソロ役、『プリティ・ウーマン』、『ダイ・ハード』、『ユージュアル・サスペクツ』の打診を断っていたらしいが、元経理担当者の出資金詐欺で多額の損失を出してからは、B級作品にも出演している。特にアダム・サンドラー主演の『ジャックとジル』(2011年)は本当に最低だった。

ジョニー・デップと共演した『フェイク』(1997年)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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