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世界を手にした実力派俳優:アル・パチーノ

June 2019

『ゴッドファーザー』、『スカーフェイス』、『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』などハリウッド映画界を代表する大御所、アル・パチーノ。粗削りな魅力にあふれる、カリスマ的な名演技をもう一度観たいものである。
text ed cripps

Al Pacino / アル・パチーノ1940年、ニューヨーク市ブロンクス生まれ。『ゴッドファーザー』出演後、数々の映画で活躍、一躍スター俳優となる。1992年の『セント・オブ・ウーマン/ 夢の香り』で念願のアカデミー主演男優賞を受賞。名だたる女優との交際報道があるが、結婚歴はない。

1974年、ロンドンにて。

 アル・パチーノは、身長167cmと小柄ながら大作の主役を張る男だ。都会に憧れる若者から、時代の流れに逆らう反体制的なヒーローまで、実に多彩な役柄をこなしてきた。冷たく潤んだ目に引き締まった鼻筋、ニヒルな口元、かすれた声……。どこか影のある甘いマスクで、70年代初頭はアンダーグラウンドな役柄の幅を広げた。

 シチリア移民の子として生まれた彼は2歳のときに両親が離婚し、母子家庭で育ったため、祖父と深い絆で結ばれて成長した。若い頃は靴磨きから、家具の運搬、果物磨き、映画館の案内係(鏡に映る自分の姿をしょっちゅう見ては悦に入っていたので、クビになったらしい)まで、どんな仕事でもしたという。やんちゃだった彼は、9歳で酒を飲むようになり、13歳でマリファナを吸い、17歳で母の意に反して高校を中退。21歳のときには武器の密輸容疑で逮捕された。

 しかし幸いにも彼は演劇に目覚め、理想的なエネルギーの捌け口を見つけた。26歳から、メソッド演技法の権威であるリー・ストラスバーグが主宰するアクターズ・スタジオで演技を学び始めると、めきめきと頭角を現す。そして舞台での演技を通じて、あのフランシス・フォード・コッポラ監督の目に留まることとなったのだ。

映画史に残る名画と名演 出世作はもちろん、コッポラ監督の『ゴッドファーザー』(1972年)だ。プロデューサーたちはウォーレン・ベイティやロバート・レッドフォード、ジャック・ニコルソンのような有名俳優をキャスティングすることを望んでいたが、コッポラだけは「カメラに映るのはアル・パチーノの顔だけだ」と主張した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 15
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