THE PASSION OF ST.JEAN

バスキアの情熱と受難

March 2017

text benedict browne
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 ジョルジオ・アルマーニとジャン=ミシェル・バスキアの個性には、明らかな共通点がある。両者とも、それぞれの業界が定めた伝統やルールを打ち破る決定的な役割を果たしていた。バスキアのファッションには、彼の芸術スタイルと同じ傾向があった。

 彼は自分の作品を、自己表現の二元性を意味する「suggestivedichotomies(暗示的な分裂)」と呼んだ。彼の作品の中心テーマは、富と貧困、融合と分離の対比だった。そのため彼は、高価なスーツを着用したまま絵を描くことにより、「暗示的な分裂」のさらなる一例を身をもって体現していたといえる。

 だが、バスキアは精巧に仕立てられた洋服に対して敬意を払っていたとはとても言い難い。手についた絵の具を、太ももの裏側にこすりつけても平気だったし、ポケットは100ドル札によってシワになっていた。果たして彼は利用されていたのだろうか?それとも彼のほうが、スーツやそれを着るための条件を武器にしていたのだろうか?

 同様に興味深いことがもうひとつある。アフリカ系アメリカ人であったバスキアはアートを通じて、人種的制約に無言の叫び声を上げていた。にもかかわらず、白人の手によってデザインされたスーツを着ていたのだ。商業的に成功しているアフリカ系アメリカ人のファッションデザイナーがいないという状況は、当時の社会的偏見を如実に反映している。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 14
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