November 2020

THE MAESTRO'S MASERATI

堺 正章氏 マセラティの魅力を語る

ミッレミリアの歴代の優勝車が描かれたイラストは、アクリル板の額装も印象的で、24枚飾られた壁は圧巻。邸宅の中のどのスペースにもセンスの良さが光る。美意識を高めるにはどうしたらよいかとの質問には、「挫折感やコンプレックスを認めること。そして憧れるものに近づけたらいいな、と思う気持ちがまずはセンスを磨く第一歩」だと。モノへの愛情深さと自己追求がこだわりを紡ぐ。

 色彩だけでなく、その壁を彩るアートや小物たちにも堺さんの愛がたっぷり。玄関脇の壁には、ウルリカ・ヒードマン・バーリーンのモダンアートが、またリビングの壁には、高山辰雄の幻想的な版画が、ぎっしり整然と並べられる。またいつでも手が届く場所にマセラティ関連の本や雑誌、小物が置かれているのも堺さんらしい。さらに、イタリア色満点のガレージの壁にずらりと飾られているのは、ミッレミリアで優勝した歴代の車が描かれたナンバリング付きのイラストだ。

「ミッレミリアがイタリアで始まったのは1927年。ちなみに1955年に優勝して、つい先日亡くなったスターリング・モスっていうかっこいい人がいたんだけど、彼は1000マイルの公道を10時間ちょっとで走るという驚異的なスピードを残していて、その車はメルセデスだった。こう見ていくと、アルファロメオやフェラーリ、BMWなんかも優勝しているんだけれど、実はマセラティは優勝できていないんだよね、これが(笑)。なんかね、そういうところも控えめでいいでしょ」

 好きなものをとことん愛する主あるじ人の温かさが広がる空間は心地よい。

「古き良き時代のセピアマインドっていうのかな、そういうものにゾクゾクする。そのぐらい、草創期への憧れが人一倍強いんですね。車を見ても、人がひとつずつ手をかけて手作りした時代の車は、熱を持って作られた文化のようなもので、次の時代にもつないでいかないといけない。だからクラシックカーは自分の所有物であって所有物ではなくて、また他の人へ渡していかなければいけないと思っている。イタリアは鉄と石の文化でしょ。そこで育まれる職人には、長く愛される最高のものを作りたいという気概とか誇りが今も感じられる。そこが素敵なんだね。日本にもそういう職人気質ってあったのに、いつのまにかアメリカの影響でプラスティック文化になっちゃった(笑)」

THE RAKE JAPAN EDITION issue 36
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