STRANGE MAGIC

ベネディクト・カンバーバッチ
芝居の魔術師

July 2021

text tom chamberlin
photography steve schoeld
styling joe woolfe

「ジャガー・ルクルトと出合ったのは、ドクター・ストレンジの役柄に合わせて時計を選んだことがきっかけ。彼は贅沢だが自由のない生活を強いられた男性で、ワインディングマシーンがいっぱいになるほどの時計を所有している。時間にまつわる幅広いテーマと密接に結びついたキャラクターなんだ。天才外科医として繊細で難しい手術を行うためにかかる時間も、魔術師としてタイムストーンの守り手となることも、アベンジャーズにおける彼の活躍につながってゆく。でも、彼にとって一番大切なタイムピースは、最愛の人から贈られた時計。征服や行きずりの関係より愛のほうが深いという意味でセンチメンタルな結びつきを感じたし、ジャガー・ルクルトの時計に秘められたストーリーに心惹かれたんだ」

 シェイクスピア劇や名作文学での多彩なキャラクターを演じてきた彼のキャリアを考えれば、役柄を哲学的に捉えていることにも納得する。ドクター・ストレンジで着用する時計(ジャガー・ルクルトの「マスター・ウルトラスリム・パーペチュアル」)が意味するもの、価値観について、興味深いコメントをしている。

「結局、彼は傷ついて使えなくなった外科医の手に対する答えを探し求め、この時計が壊れたときも絶対に手放さなかった。ラストシーンでじっと見つめる時計は壊れているけれど、“時間”は時計ではかるような従来の概念を失い、はるかに大きな意味を持つようになっている。だからこそ、“割れた時計”というのは象徴的で、彼が経験し、操作できる“時間”の亀裂を表現しているんだ。思い出の品として大切にしているのは、この時計が美しいから。壊れていても、それが象徴するものと同じように、彼にとっての価値は失われていない。これは愛する女性からのプレゼントだから、昔の生活につながる唯一のもの。壊れているからこそ、両手と同じように二度と元には戻らないということを思い出させるんだ」

 公私にわたる彼自身の姿勢やアプローチは、仕事仲間にも影響を与えている。カンバーバッチの友人で、『ドクター・ストレンジ』や『それでも夜は明ける』(2013年)で共演したキウェテル・イジョフォーが本誌にこう話してくれた。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 24
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