August 2019

SPIRITUAL LEADER

バレンシアガの伝説

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仕事中のバレンシアガ。アンリ・カルティエ=ブレッソンがパリで撮影、1968年。

 リッツにクチュール専用のスイートを借りておくほどバレンシアガの熱心な顧客のひとりだったクラウディア・ハード・ド・オズボーンはこう回想している。

「カットするときは神父のような気持ちになると彼は言っていたわ。すごくセクシーな神父ね」

 そのあたりは、セシル・ビートンが詳しく書いている。

「バレンシアガは黒髪で無表情な、中背・中年のスペイン人だ。まなざしは鋭く、かぎ鼻で、頭が鶏のように動く。生まれは貧しかったが、非の打ちどころのないセンスに恵まれ、すべてに完璧を求めている」

早熟の天才 クリストバル・バレンシアガはバスクの漁村で1895年に生まれた。船乗りだった父親が若くして亡くなり、母親は洋裁の仕事で生計を立てていた。末っ子のバレンシアガも3歳で裁縫を始め、針仕事において驚くべき腕前を発揮する。彼は両利きで、どちらの手でも裁断や縫製ができたのだ。

 6歳のときには飼っていた猫のために、パールをあしらった美しい首輪をデザインした。これに目を留めた近所の貴婦人、カーサ・トーレス伯爵夫人がバレンシアガにとって最初のパトロンになり、豪華なドレスのひとつを複製させてくれた。12歳になると、バスク州のサン・セバスティアンのテーラーに弟子入りし、カッティングの技を学んだ。その後、サヴィル・ロウに通ってさらにその腕を磨いた。ツイードやウールにこだわり、パーフェクトな服を仕立てるバレンシアガはめきめきと頭角を現した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 21
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