September 2016

SLAVE TO LOVE

孤高の天才、プリンス

text stuart husband
Issue12_P51_1

大観衆の前でギター演奏(1985年)

 だが結局のところ、私たちはプリンスのことをほとんど知らない。ギターをかき鳴らし、切々とした調べで観衆を魅了し、神秘的なほどにエロティックなメロディを操りながら、彼はいつもどこか謎めいていた。彼が二度も結婚していたこと、ミネアポリスを走り回るのが好きだったこと、長年関節炎を患っていたこと。それらは、皆が知っているただの事実だ。真実のプリンスは、彼の音楽の中にある。「Paisley Park」で約束した世界だ。

ロック史に刻まれたステージ プリンスが既存概念を破壊するユニークなアーティストであることを証明する、伝説のパフォーマンスをご存じだろうか。動画サイトにもアップされている。2004年にジョージ・ハリスンがロックの殿堂入りした際、記念式典で行われた追悼パフォーマンスでのひとコマだ。

 トム・ペティ、スティーヴ・ウィンウッド、ジェフ・リンが「While My Guitar Gently Weeps」のトリビュートバージョンを演奏し始めても、プリンスはステージ左手の暗がりで静かに伴奏している。だが3分半もすると、ピンストライプのスーツに真っ赤なスタンドカラーのシャツとハットという出立ちの彼が、中央に躍り出してギターソロをスタートさせる。ステージから落ちそうなほど身体をのけぞらせ、警備員に支えられながら、天賦の才をいかんなく発揮した情熱的なソロを披露。最後はギターを放り投げて、“やり遂げた”と言わんばかりに舞台袖へ飄々と戻っていった。聴衆は皆、その圧倒的なパフォーマンスと存在感に呆然としていた。

 今は亡きプリンス・ロジャーズ・ネルソンに追悼の意を表したい。ありがとう、プリンス。どうか安らかに。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 12
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