THE CHECK'S IN THE POST: PRINCE OF WALES CHECK

プリンス・オブ・ウェールズ・チェックについての考察

February 2022

サルトリアに精通した筆者が、最も汎用性の高いマスキュリン・パターン、「プリンス・オブ・ウェールズ・チェック」について考察する。

 

 

by CHRISTOPHER MODOO

 

 

 

映画『007/黄金銃を持つ男』(1974年)のロジャー・ムーア。

 

 

 

 私は昔からプリンス・オブ・ウェールズ・チェックが大好きだ。エドワード7世にちなんで名付けられたこのチェックは、彼の孫が流行らせたことで知られており、今日もウェルドレッサーのワードローブには欠かせないものとなっている。

 

 私が16歳のとき、最初のスーツとして父が買ってくれたのは、一般的なグレイやネイビーの無地ではなく、ブラックとエクリュのグレンチェックのスーツ(ダブルブレステッド)だった。スーツとしてはもちろん、ジャケット、トラウザーズがセパレートでも使えるものの方が、より長く着られるだろうと考えたのだ。1年ほどで小さくなり着られなくなるだろうと思われていたが、10代後半にはあまり背が伸びなかったため、何年も着ることができた。特に、ブルーのブレザーやセーターにこのトラウザーズを合わせるのが好きだった。

 

 このスーツは、最終的にオーダーメイドのものにアップグレードされた。3つボタン段返りでチケットポケットを備えていたが、生地はかすかにスカイブルーのオーバーチェックが入っていること以外は、ほぼ同じものを選んだ。これに加えて、もうひとつダブルブレステッドも注文した。ロロ・ピアーナ社の素晴らしいサキソニー・ウールとカシミアを使用したものだ。当時、私はサヴィル・ロウでセールスマンとして働いていたので、英国のマーチャントの生地はほとんど知っていた。しかし、当時のロロ・ピアーナの製品には何か少し特別なもの、エキゾチックなものを感じた。後で知ったことだが、ブルーのオーバーチェックは慎重に配されていて、複雑な柄の中で幾何学的なバランスがとれるよう計算されていたのだ。

 

 

 

エドワード7世と孫娘のモードとアレキサンドラ・ダフ(1904年)。

 

“プリンス・チャーミング”と呼ばれていた頃のプリンス・オブ・ウェールズ(1927年)。

 

第二次大戦の退役軍人との茶会におけるチャールズ皇太子(2015年)。

 

 

 

 

 バイヤーになった私は、エクスクルーシブなデザインの布をオーダーすることに大きな喜びを感じた。この仕事はまず、膨大なアーカイブから探し出すことから始まる。そんな中、アーサー・ハリソンのコレクションで、あるウーステッド・フランネル・チェックを初めて見つけたときのことが忘れられない。

 

 そのチェックは平均より少し大きかったのだが、コントラストの少ないデザインでインパクトは控えめだった。それはチェックの“スケール”というものを考えさせるものだった。オフィスに戻ってから、スワッチ見本をコピー機で50%拡大してみた。その結果が面白かったので、「このくらいの大きさでお願いします」というメモを添えて、工場に送り返した。もちろん、サンプルを織っていた19世紀の織機には、同様の“拡大ボタン”はついていない。実際、当時のセールス・ディレクター、マシュー・シンプソンが後からよく言っていたことだが、このパターンを生み出すためのチェーン(ラグと呼ばれる)を作るだけで、工場では丸一日かかったそうだ。

 

 一般的に見られる大きなチェックには、上質なウーステッドではなく、ツイードなどの粗い毛糸が使われている。仕上げの段階では、特に慎重にならなければならない。大きなパターンの場合、伸びたり縮んだりすると、それが増幅されてしまうためだ。しかし、出来上がった布は技術的に完璧だっただけでなく、柄も非常に素晴らしいものだった。私は早速注文をした。残念ながら商業的には大成功とは言えなかったが、2006年にローマのセント レジス グランドで行われた映画『007 カジノ・ロワイヤル』のプレミア上映会で、ダニエル・クレイグがその生地で仕立てられたスリーピースを纏ってくれたのは、私の小さな誇りとなっている。

 

 

 

ランドルフ・スコットとビビアン・ゲイ。ロサンゼルスで行われたナショナル・エア・レースにて(1933年)。

 

カーネーションを胸に差したゲイリー・クーパー。

 

フレッド・アステア(1941年)。

 

 

 

 当然のことだが、大きなチェックであればあるほど、裁断する際に無駄な部分が出てきて、より多くの生地が必要になる。袖から身頃までチェックの柄を合わせなければならないからだ。襟は背中とバランスが取れていなければならず、ポケットのフラップもルールに沿って配されていなければならない。

 

 エドワード・セクストンと仕事をしたことで、ラペルも胸部に合わせて配置することが可能だと知った。斜めに配置されたチェックと水平に配置されたチェックを一致させるのは非常に難しく、正確な判断が求められる。通常、各ラペルの1点でしかマッチさせることができないが、理想的にはボタンホールと胸ポケットの間のどこかで合致させると、最も美しい仕上がりになる。

 

 このように優雅なパターンにおいては、“スキニーフィット”は避けなければならない。ナローなラペルに大きな柄はアンバランスだ。ワイドなラペル、ボリューム感のあるチェスト、ゆったりとしたトラウザーズで身につけることをおすすめする。幸いなことに、過度にスキニーなスーツは表舞台から去った。私は自分がそんなスタイルに手を出さなかったことを誇りに思っている。

 

 いま私は、次のプリンス・オブ・ウェールズ・チェック柄のスーツを考えている。3着目で最後になるだろう。もし私が、何かエクスクルーシブなものを依頼できることになったら、工場のことを考えて、デザインにあまり余分な色を入れないようにしよう。そうしないと“チェック”が大変なことになるからだ……。

 

 

エンターティナーのサミー・デイヴィス Jr.。

 

ボビー・ヴァレンタインとサヴィル・ロウの伝説的テーラー、トミー・ナッター(右)。

 

映画『華麗なる賭け』(1968年)のスティーブ・マックィーン。

 

ロイヤル・ウィンザー・ホース・ショーにおけるマイケル・オブ・ケント王子。

 

ミック・ジャガー等を顧客に持ったサヴィル・ロウの鬼才、トミー・ナッター(1973年)。