March 2022

SKÅL OF THOUGHT

俳優:マッツ・ミケルセン 美しき“至宝”に祝杯を

text nick scott
photography charlie gray
fashion direction grace gilfeather

ジャケット Z.Zegna ポロシャツ Barbanera at The Rake 時計「デ・ヴィル トレゾア スモールセコンド」手巻き、18KYGケース、40mm Omega

 モンテネグロのカジノでボンドとポーカー勝負をする悪役ル・シッフルは、左目から血の涙が流れ出てしまうというヘモラクリア体質の男。その身体的特徴は強烈なインパクトだが、劇中ではもっと衝撃的なシーンがある。シリーズ史上最も残酷な拷問。ボンドが全裸で座面のない椅子に縛り付けられ、ロープの結び目で睾丸を滅多打ちされるというものだ。ところがミケルセンとクレイグはさまざまな拷問のアイデアを出し合い、さらなる高みを目指していた。不採用案は、プレイボーイのボンドにとって人差し指を失うことよりも辛い内容だったようだ。

「夢中でディスカッションしたよ。僕が彼のXXを切り刻んで、残りの人生で使い物にならなくしよう、とか(笑)。そうなったら皮肉だよね。で、そのときマーティンがこっちを見ながら『頼むからふたりとも戻ってこい』って(笑)」

 ル・シッフルで見せた冷徹な魅力のおかげで、ミケルセンはテレビシリーズ『ハンニバル』(2013年~2015年)に起用された。彼が手にした役はもちろん、かつてアンソニー・ホプキンスが演じたハンニバル・レクター役である。

 しかし、先述のA・O・スコットをして言わしめた「信頼すべき個性派俳優」という評価は、作品を重ねるごとにそぐわないものになっている。ミケルセンはハリウッド作品でも「悪役」という枠だけに収まることを拒んでいる。『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(2016年)では、デス・スター計画の完遂を強要される平和主義の科学者ゲイレン・ウォルトン・アーソを演じた。そのプロットは、J・ロバート・オッペンハイマーが原子爆弾の開発で背負った役割を彷彿とさせる。強制的に娘と引き離されたアーソは、デス・スターの核融合炉に弱点を仕込み、反乱軍がそのライフワークを破壊できるようにしたのだ。献身と痛みに変えるふたつのストイシズムを、絶妙なバランスで見事に演じられる個性派俳優など他に思いつかない。

FASHION ASSISTANT: VERONICA PEREZ
PHOTOGRAPHER’S ASSISTANT: KANE HULSE
VIDEOGRAPHER: MARS WASHINGTON
GROOMING: CIONA JOHNSON-KING @AARTLONDON USING ARMANI,
TOM FORD AND KEVIN MURPHY
LOCATION: BY AIRSPACE LOCATIONS

THE RAKE JAPAN EDITION issue 42

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