注文服の旗手、三越伊勢丹・鏡 陽介氏が解説
“サヴィル・ロウ・スタイル”とは何か?
May 2020
として知られるヘンリー・プールを例にとり、注文服のエキスパート・鏡氏に解説いただいた。
HENRY POOLE1806年に誕生した名門。長きにわたって政財界の顧客を多く相手にしてきた歴史もあり、同地の中でも控えめで中庸な仕立てを特徴としている。三越伊勢丹では英国製メイド トゥ メジャー、日本製ビスポーク、日本製メイド トゥ メジャーの3種類を常時オーダー可能。スーツ¥245,000 〜〈日本製メイド トゥ メジャー価格〉Henry Poole/Isetan Shinjuku その他 property of Stylist
―サヴィル・ロウ・スタイルの全体的な特色とはどんなものですか?
鏡 ひとくくりに語るのは難しいですが、共通するマインドとして“コンフォタブルでありつつ、きちっとして見せる”ということが根底にあると思います。イタリアに比べて仕立ては構築的ですが、アームホールを高く設定することでコンフォタブルを叶える設計思想が特徴的なところだと思いますね。
―サヴィル・ロウにはさまざまな老舗テーラーがありますが、代表的なところの作風を解説いただけますでしょうか。
鏡 サヴィル・ロウ・テーラーは、起源やメイン顧客層などによって4つのグループに大別することができると考えます。1は比較的柔らかな仕立てを特徴とし、なで肩ぎみのラインや前身を後ろ身に比べて小さめにした設計など、イタリア仕立てにも通じるものがありますね。2は軍服由来のものが中心で、より構築美を重んじた威厳のある仕立て。ちなみにヘンリー・プールもここに属します。これらはともに、デザインにおいては主張を抑えて着る人を引き立たせるよう意識しているのが特徴的といえるでしょう。つまり“アンダーステイトメント”であることに重きをおいているのです。対して3はより“ファッションとしてのスーツ”を志向して作られており、一目でそれとわかる独創性に富んだ作風を備えているグループになります。1990年代に颯爽と登場し、「ニューテーラー」と呼ばれてサヴィル・ロウに新風を吹き込んだリチャード ジェームスなどがその代表例ですね。4はさらにエッジを効かせたデザインを得意とするテーラーたちで、いわばスーツ作りをアートのように捉えているともいうことができるでしょう。
―イタリアのテーラーと比べて、最大の違いはどこにありますか?
鏡 もちろん作風も違うのですが、最も大きな違いとなると“企業体としてのテーラーかどうか”という点にあると思います。イタリアにおいては、サルトリアを背負って立つマエストロが大黒柱として存在し、職人個人に依存するところが非常に大きい。対してサヴィル・ロウでは各工程がシステマチックに分業化され、職人全体でスーツ作りを支えています。個の力が大きいイタリアのサルトリアには後継者問題が常につきまといますが、サヴィル・ロウ・テーラーはその長い歴史のなかで、何世代にもわたってスタイルを継承していくための強固な地盤が築かれているのです。これが企業体としてのテーラーということです。ちょっと難しい話になりましたが、要は顧客側にとっても、親から子、そのまた子と代々同じテーラーに通い続けられる盤石の安心感があるということです。これがサヴィル・ロウ・テーラーの特徴であり、大変素晴らしいところだと思いますね。
解説役
Yosuke Kagami / 鏡 陽介日本橋三越本店 紳士パーソナルオーダー バイヤー。現在、同店と伊勢丹新宿店にはサヴィル・ロウをはじめとする世界的テーラーが一堂に会するオーダーサロンが存在するが、その立ち上げ役となった人物だ。注文服に関する知識は業界随一で、サヴィル・ロウ・テーラー各店とも太いパイプを持つ。
本記事は2020年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 32