March 2021

PAST IS PROLOGUE

新車で甦った、ボンドのアストンマーティン

ボンド・カーとして、スクリーン狭しと走り回った名車が甦った。
回転するナンバープレート、スモークスクリーン、マシンガンを装備した、アストンマーティン DB5 ゴールドフィンガー コンティニュエーションだ。
世界限定25台、1台を作るのに4,500時間を要するという実にスペシャルなクルマだ。
text tom chamberlin

 私は少し窮地に陥ってしまった。私は長年にわたり、ラグジュアリー業界で記事を書くに当たり、大げさな褒め言葉の乱用を避けてきた。アルチザン的、ラグジュアリー、アイコニックなどの用語である。各ブランドは、限られた顧客のために、何か際立った出来栄えのものを作らなければならない。彼らは皆、何か“アイコニックなもの”を作ろうと努力している。どうしてもそれを所有したいと思わせる何かである。

 カストロはコイーバの葉巻にそれを見いだし、ロレックスは万能の防水時計を作り、ヘンリープールはディナースーツを仕立てることによってそれを達成した。だが、成功例はそんなには多くない。だからこそ、私は安易に大げさな言葉を使うことを避けようとしてきたのだ。しかし、今私の目の前に、どうしても最上級の賛辞をかき集めなければならない存在が鎮座している。アストンマーティン DB5 である。

 アストンマーティン DB5は、“美しさ”という点において、ほぼ完璧といえるクルマだ。映画『007/ゴールドフィンガー』(1964年)では、ジェームズ・ボンドの愛車として、スクリーン狭しと走り回った。映画『007/スカイフォール』(2012年)で、このクルマが再び登場したとき、観客はそのエレガンスに息を呑んだ。

 だから、アストンマーティンのDB5ゴールドフィンガー コンティニュエーションの試乗の招待を受けたとき、どうしても行かなければと思った。『ゴールドフィンガー』に登場するすべてのガジェットを搭載した25台限定モデルを試す機会は、二度と来ないとわかっていた。私はミルトン・ケインズにあるアストンマーティン・ワークスの工場に向かった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 38
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