OUT OF THE FIRE

炎の男、ニキ・ラウダ

March 2020

戦いの傷跡を持つレーシングドライバーとして、そして企業家として生き、5月に亡くなったニキ・ラウダは、几帳面で容赦のない王者の鑑であった。
だが彼の伝説は、炎の中で生み出されたものだった。
text nick foulkes
issue10

「私が1976年のドイツ・グランプリで、悲惨な炎上事故を生き延びたことは、世界選手権で3回優勝したことと同じくらい知られている。20年近く前のニュルブルクリンクでの出来事について、もう考えることはほとんどないものの、あれが当時のモータースポーツの危険性を、まざまざと示すことになったのは確かだ」

 ニキ・ラウダは、自分自身をみじんも美化しない人だった。彼は自分のレガシーを評価する際も、マシンのハンドルを握っているときと同様に、感情に流されることなく冷静に判断するタイプだった。

 かつての彼は、まずフェラーリのために、次にマクラーレンのためにマシンを駆って、1975年、1977年、1984年にF1の世界チャンピオンに輝いた。最初と最後の優勝が10年近く離れているという事実が、能力の高さを物語っている。

 多くの人にとっては、その功績“だけ”で十分だっただろう。ところが、ラウダはビジネスにも秀でており、自身の名を冠した3つの航空会社を設立したうえ、職業パイロット免許を持っており、いくつかのフライトで機長も務めた。

 さらに、現在のメルセデスチームが55年ぶりにF1復帰した際、彼は重要な役割を果たしたとされている。彼は、2019年5月のモナコGPの数日前に70歳でこの世を去った。推定5億ポンド近くの富を遺して。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 31
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