September 2019

MANNERS MAKETH MAN COLIN FIRTH

最強のジェントルマン、コリン・ファース

text shiho atsumi

2014年公開の前作『キングスマン』。コリン・ファースは、スパイ組織のエース・エージェント、ハリー・ハート役を演じた。組織の本拠地となった店舗は、ロンドンのサヴィル・ロウに実在する老舗高級テーラー「ハンツマン」がロケ地。古きよき英国らしさを残すクラシックスーツスタイルは、ファッション業界でも話題に。
Photo by Photofest/Getty Images

「私はずーっとジェームズ・ボンドのオファーが来るのを待っていたんだけど、声をかけてくれたのは(この作品の監督の)マシュー・ヴォーンだった。いいコンビネーションだと思ってくれたんだろうね。彼は人々が考えることを予測してひっくり返すのが好きなんだよ。そして私のところに来て、こう言ったんだ。『人々はあなたが“誰かのケツを蹴っ飛ばすタイプ”とは夢にも思わない。だからこそやってもらいたいんだ。ものすごいサプライズになると思うから』とね」

 観客の心に、おそらく10年後も残るだろうその場面は、ケンタッキーの教会でハリーが繰り広げる文字通りの“100人斬り”だ。IT企業のCEOに電波を操られた人々が、狂気に陥り殺し合いを始める。そこに巻き込まれたハリーは、襲いかかってくる人々を、ハイテンションなロックに乗って手当たり次第に倒してゆく。拳銃に始まりナイフに斧、時には燭台に聖書などを武器に、あるときは誰かの頭にナイフを突き刺し、あるときは誰かを盾に身を守りながら(コリン・ファースの実の祖父母が宣教師であることを思えば、恐ろしくイギリス的なブラックなジョークといえるかもしれない)。だがもっと驚かされるのは、戦いを終えて教会から出た直後、ハリーがあっさりと撃ち殺されてしまうことだ。主人公が作品の半ばで死んでしまうとは。なんと。

「前作の『キングスマン』では非常に明確だった。マシューは『君のキャラクターは死ぬ。残酷に』と言った。救済措置はなかったんだ。でもそのうちにだんだんと、どうやって彼を生き返らせようか、というやりとりが始まった。もちろん“邪悪な双子の片割れ”のようなやりつくされたアイディアは出なかったけれど。それに目的は作品に“コリン・ファース”を戻すことではなく、キャラクターの関係を戻す方法についてだったんだ」

 そうした議論の末に完成した『キングスマン:ゴールデン・サークル』は、ファンが抱える「ハリーはどこかで生きているはず」という思いを回収しながら、弟子=タロン・エガートンがいうところの「エグジーとオビ=ワン・ケノービ型の父親代わり」の関係を描いてゆく。ある荒唐無稽な方法で命をつないでいたハリーと再会したエグジーは、彼が自分の知るハリーとは――アイパッチのビジュアルも含め――別人であることに衝撃を受ける。

本記事は2017年11月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 19

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