September 2018

ENGLAND, OUR ENGLAND
競馬のための装い

text nick foulkes

3ピースのモーニングスーツとトップハット姿のチャールズ皇太子。1979年。

 当局はロイヤル・エンクロージャーにそぐわないことが起きないよう、最善を尽くしていた。海外のお客様であればしきたりに不案内でも許されたかもしれない。しかし、ボーラーハット(*2)をかぶってアスコット競馬場へ行ったハリス卿は、エドワード7世に「ネズミ捕りに行くのかね、ハリス?」と声をかけられた。にもかかわらず、支持者からの声を真に受けるハリスの有り様を見て、とある風刺作家は、「プリンス・オブ・ウェールズがビリーコック(山高帽の別名)を流行らせてくださればよいのだが」と嘆いた。

継承された厳格なドレスコード とはいえ、アスコット競馬を今日の形にしたのは間違いなくトップハットと燕尾服である。これなしでは、ほかの競馬大会と変わらない。エドワード7世時代のロイヤル・エンクロージャーの華麗さは、全盛期を迎えた大英帝国の権威を示している。ウィンザー公も、第一次世界大戦後のアスコット競馬は、「戦前と同じく皆がトップハットをかぶって参加しており、華々しかった」と安堵した様子で、自身の回想録に記している。

 しかし1946年の大会は大きく様変わりし、タイムズ紙は次のように報道した。

「王の命により、アスコット競馬は緊縮路線となる。ロイヤル・エンクロージャーにおける男性の正しい服装は、制服またはラウンジスーツである」

 ボーラーハットの愛好家たちが、この機会に再流行を図った姿を見たら、ハリス卿も喜んだことだろう。

「アスコット競馬に関する報告によると、ボーラーハットが再び問題を提起している。ここしばらく限定的な人気に甘んじていたボーラーハットが、歴史ある王国に公然と帰還を果たすかどうかは、実に興味深い問題である。最も流行を牽引しそうな人々は、アスコット競馬でこぞってボーラーハットとラウンジスーツを着用したと思われる。これが何の影響も及ぼさないことはまずないだろう」

(*2)ボーラーハット = トップが丸く半球型の山高帽。ビリーコックの名称もある。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 24
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