Friday, April 20th, 2018

ALL THE RIGHT MOVES

トム・クルーズ
—トップ俳優の努力と執念

text shiho atsumi All Photo by Photofest/Getty Images

『マグノリア』(1999 年)で演じたフランク・マッキーは、ミソジニーにまみれたモテない男の恋愛のカリスマでありながら、トムの分身のようなキャラクター。

父親への愛憎を浮き彫りにした
オスカー候補作『マグノリア』
 スタンリーに電話すべきか、悩んだ彼が相談したのは監督のシドニー・ポラック(『ザ・ファーム 法律事務所』)だった。

「飛行機操縦」という同じ趣味を介して生涯の親友となった彼は、トムにとって理想の父親像だったのかもしれない。彼らが出会った同じ頃、トムは「理想の父親」とは程遠い実の父親トーマス・クルーズ・メイポーザー3世を亡くしている。両親の離婚は12歳の頃。それから1983年の父親の死までに、彼が父親と会ったのはたったの2回だったという。

「彼は意地悪な臆病者で、僕の人生における最大の試練だった。どうしたら許してもらえるか、安心していられるか、それでも“ガツン!”と来るときは来る。僕からしたら“この男はどうかしてる。信じるな。近くにいる時は注意しろ”そういう感じだったね。彼は自分が犯してきた多くの間違いに、生きながら飲み込まれてしまったんだと思う。僕が会いに行った時も、過去について話したがらなかった。僕は言った。“父さん、望むことは何だって言ってくれ”。そして彼の手を取り、言ったんだ。

“愛している、寂しいと”。彼は“病院を出たら、一緒にステーキを食べてビールを飲み、それについて話そう”と言った。果たされる前に、死んでしまったけどね」

『アイズ・ワイド・シャット』の撮影現場で芽吹いた“新たな作品”には、こうした彼自身の物語が多分に反映されていたのかもしれない。トムに誘われて現場を訪れたのは『ブギーナイツ』の俊英ポール・トーマス・アンダーソン監督。そしてこの時トムに促されて書いた脚本が『マグノリア』(1999年)だ。彼がトムのために書いた役は、ダーティーワードを連発するマッチョな恋愛のカリスマ、フランク・マッキーである。幼い頃に父親に捨てられた彼は、心の傷を封印してきたが、ひょんなことから父親が死の床にいることを知る。再会した父親を前に崩れ、血を流すように恨みと愛を吐露するマッキーの演技は、トム自身の心の痛みによって作られたものだ。

 のちにトムは述懐している。「あのキャラクターといる間ずっと、僕は何かのキワを滑っているみたいだった」。この作品でトムは『7月4日に生まれて』『ザ・エージェント』に続き3度目のオスカーにノミネートされるが、惜しくも受賞は逃した。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 18
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