Friday, April 20th, 2018

ALL THE RIGHT MOVES
トム・クルーズ
—トップ俳優の努力と執念

これまでも、これからも、こんなにも映画に全身全霊を捧げる大スターは、きっと出てこない。
観客を楽しませたい。素晴らしい映画を作りたい。その一心で、
あらゆることに挑戦し続けるトム・クルーズ。栄光の彼方に、求めるものは。
text shiho atsumi
All Photo by Photofest/Getty Images

 ハリウッドの青春映画全盛の1980年代、日本に上陸した映画で最も鮮烈な印象を残したのは、フランシス・フォード・コッポラ監督の『アウトサイダー』(1983年)だろう。田舎町の不良グループの対立を軸に、貧しい少年たちの友情と青春の最後のきらめきを描いた物語は、主演のマット・ディロンを筆頭に多くの若手スターを生み出した。だがもしかしたら、その中にトム・クルーズがいたことを覚えている人は多くないかもしれない。彼の真の出世作は同年公開の『卒業白書』。『トップガン』で世界的なアイドルスターとしての地位を確立するのはこの3年後だ。
当時、一世を風靡した同世代のアイドルたちは「ブラット・パック」と呼ばれ、突然手にした大金とドラッグで80年代を遊び尽くし、星屑となった。トムがその能天気な一員に数えられていたことは、今となっては冗談のような誤解だ。18歳で観た黒澤明の『七人の侍』に感激した若手俳優は、おそらくこの頃には新渡戸稲造の著書『武士道』を読み、サムライの世界に心酔していたのだろう。
「ここに書かれているすべてのことについて、僕は生涯努力している。忠誠心、思いやり、責任感。人生を顧みて、自分がしてきたすべてのことに責任を取る、という考え。僕は、サムライとサムライの行動規範に魅せられた。『ラスト サムライ』を作りたかった大きな理由のひとつだ」
ブラット・パックの連中が延々と似たような青春映画で稼ぐ中、トムは―彼に“アイドル”を望む観客を『カクテル』(1988年)、『デイズ・オブ・サンダー』(1990年)などの作品で宥めながら―着々とアイドル路線からの脱皮を図ってゆく。その中でファンに破壊的な衝撃を与えたのは、ベトナム戦争の帰還兵を演じた1989年の『7月4日に生まれて』だろう。戦争の悲惨さを剥き出しの生々しさで描く社会派オリバー・ストーン監督による作品で、トムは下半身機能の喪失に悶え苦しみながら、やがて反戦運動に身を投じてゆく男を演じている。
「僕がこの映画に出た時、みんなが言った。“これは君のキャリアを台無しにする。なんで『トップガン』の後にこんなもんをやるんだ? 素直に『トップガン2』をやれよ”ってね。でも僕は自分自身に挑戦したかったんだよ」

キューブリック作品を乗り越えた
演技派への変貌の10年

 だがこれは単なる「挑戦の10年」の幕開けでしかない。それまでの“健康的な体育会系”のイメージを覆すべく選んだ2本の法廷劇『ア・フュー・グッドメン』(1992年)、『ザ・ファーム 法律事務所』(1993年)、そして体重を激減させて挑んだ『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994年)。極めつけは、天才スタンリー・キューブリック監督の『アイズ・ワイド・シャット』(1999年)だ。トムは当時の妻だったニコール・キッドマンとともに、嫉妬と性的妄想の淫靡な世界に飲み込まれてゆく若い医師を演じている。
「スタンリーは、まずは共通の知人を介して僕の連絡先を手に入れファックスしてくるんだ。“こんにちは。この私の番号に電話してきてほしい。君にやってもらいたい作品について話したいんだ”っていう感じで。で、僕は電話をかけよう―とは思ったんだけど、ファックスを眺めながら30分くらい悩んだよ。“今電話すべきか? 何を話せばいいんだ?”ってね」
当時、ハリウッド映画史上最長といわれた400日以上に及ぶ撮影期間を経て、映画は完成する。そしてそれだけの長期間、倦怠期の夫婦を演じたトムとニコールは―関連は定かではないが―映画公開後に離婚することとなる。
「最初から、ある程度の犠牲を払うことになると覚悟はしていた。でもスタンリー・キューブリックと働く栄誉を感じていたからね。僕らはこの映画を撮ることで、何を費やすことになったか。撮影の長さなんてどうでもよかった。だって僕は―そしてニコールも―思っていた。これは僕らにとって本当に特別な時間になるということをね。

Gavin Bond/Camera Press/Aflo
Tom Cruise
トム・クルーズ
1962年生まれ。’86年の『トップガン』でスターの地位を確立。『7月4日に生まれて』『ザ・エージェント』『マグノリア』で3度アカデミー賞にノミネート。’96 年の『ミッション:インポッシブル』以降は作品製作にも乗り出し、多くの新人監督に機会を与えている。

Photo by Photofest/Getty Images
父の死で再会した、自由奔放な弟とサヴァン症候群の兄との交流を描くロードムービー『レインマン』(1988 年)。トムが脱アイドル路線に踏み出した最初の作品。共演のダスティン・ホフマンはアカデミー主演男優賞を受賞。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 18
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