February 2018

THE ROARING TWENTIES

ベントレー・ボーイズの伝説

text andrew hildreth

貴重なサインが入った、1928 年のベントレー・ボーイズのル・マン優勝を祝うメニュー。

 ル・マンで優勝すると、夜には祝勝会が開かれた。1927年に、ストランド街の高級ホテル、ザ・サヴォイで開かれたパーティーは有名なもののひとつである。主賓は、この年の優勝車で厳しい戦いをくぐり抜けてきたベントレーのNo.7で、このクルマがテーブルの主賓席に置かれた。

 アーデンランと呼ばれるサリー州リングフィールドにある邸宅で開かれたパーティーは、伝説になるほど豪華だった。会場はギャッツビーの世界さながらで、アルコールにまみれたショービジネス界の輩からレーシングドライバーまで、実にさまざまな人間がいた。酒宴が終わると、最高の美女たちは、自分で選んだドライバーに、自身の屋敷の門までクルマで送らせたが、女性のヘルメットの装着は必須だった。なぜならドライバーがほとんど立てなかったり、運転に集中できなかったりしたからである。

不死身の男、キッドソン パーティーでもレースでも全力で暴れ回っていたベントレー・ボーイズだったが、不思議なことに、死亡事故だけは回避する能力を持っていた。特に、グレン・キッドソンは“不死身の男”だった。イギリス海軍で大佐を務め、1914年にはひとつの戦闘のなかで、2隻の船に乗船し、そのどちらもが魚雷攻撃を受けた。数百人の死者が出たなか、キッドソンは助かった。指揮した潜水艦が海底で動けなくなったときも、彼の見事な操艦により浮上に成功した。

 空の上でも彼は不死身だった。1929年、乗客として乗っていた航空機がロンドンの空港からアムステルダムに向かう途中、突然炎に包まれた。彼は急降下をはじめた機体のパネルを蹴破り、服に火がついたまま脱出した。他に生存者はいなかった。キッドソンは重度のやけどを負ったものの、入院と治療により見事回復し、1930年にはバーナートと組んでル・マンで優勝を果たした。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 20
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