The LAST TYCOON

最後の大君
ロバート・エヴァンス

October 2020

かつてF・スコット・フィッツジェラルドは「アメリカ人の人生に第2幕はない」と記したが、ヒット映画をいくつもプロデュースし、7度の結婚をし、その巧みな話術で人々を夢中にさせたロバート・エヴァンスはそれに異を唱えたことだろう。
彼の人生は、意外な展開に満ちていた。
text ed cripps

Robert Evans / ロバート・エヴァンス1930年ニューヨーク生まれ。兄と共同経営のアパレル会社が成功し、若くして巨万の富を築く。女優ノーマ・シアラーに見いだされ俳優となるもプロデューサーへ転身。1967年から1974年までパラマウントの製作トップに抜擢された。7度の結婚やコカインの違法取引で有罪となるなど派手な私生活でも知られ、自身の回顧録『くたばれ!ハリウッド』も話題に。2019年10月、89歳でその生涯を閉じた。

 ロバート・エヴァンスは、1930年にマンハッタンのアッパーウエストサイドで生まれた。両親はユダヤ人で、父はハーレム地区で歯科医をしていた。若きエヴァンスはラジオ芝居やファッションに手を出し、兄チャールズとともに婦人服の会社を設立した。

そんな彼を1956年にビバリーヒルズ・ホテルのプールで見つけ、大いに心を動かされたのが大女優のノーマ・シアラーである。シアラーは、エヴァンスこそが映画『千の顔を持つ男』(1957年)のアーヴィング・サルバーグ(MGM社を率いた彼女の夫)役を演じるべきだと主張した。

 その後すぐ、映画プロデューサーのダリル・ザナックの目に留まり、ヘミングウェイの『日はまた昇る』の映画化作品(1957年)で闘牛士ペドロ・ロメロ役に抜擢される。ヘミングウェイはこの配役に反対したが、ザナックは意見を曲げることなく、「彼を出演させる」と言い渡した。

 こうして俳優として活動したエヴァンスだったが、『The Detective(原題)』という本の権利を取得するとフランク・シナトラ主演で映画化(『刑事』1968年)へ動き出し、映画プロデューサーへと転身。ニューヨーク・タイムズがプロデューサーとしてのエヴァンスを絶賛すると、その記事が経営難にあったパラマウントを買収したガルフ・アンド・ウェスタン・インダストリーズの会長チャールズ・ブルドーンの目に留まった。ブルドーンは、パラマウントを復活させるべく、エヴァンスをパラマウントのトップに就任させたのだった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 36
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