The Bold and the Beautiful

魔性の女、列伝

October 2017

text james medd

フィオナ・フォン・ティッセンと夫のハンス・ハインリヒ・ティッセン=ボルネミッサ(1956 年)

宝石泥棒だった女 動物愛護に加えて、2人が魅せられたのはジュエリーである。ジュエリーは何世紀にもわたって、富豪が美女を手に入れるための“愛の通貨”だった。

 光りものに魅せられて深みにはまった美女は他にもいる。ステファニア・フォン・コリーズ・ツー・ゲッツェン男爵令嬢だ。米国、ドイツ、フランスのパスポートを持ちながら、オーストラリア出身と言われているミステリアスな女性だ。彼女は1936年に生まれ、ロンドンのメイフェアとパリのセーヌ左岸で暮らしていた。

 彼女が男性に与えた影響は瞠目に値する。イタリア人画家のピエトロ・アンニゴーニは、ステファニアの美や精神を表現しようとしてあまりにも大きな肖像画を描いたため、彼女はその絵を置く場所を確保するために引っ越さなければならなかった。

 次のお相手はロベール・ド・ムサック男爵だった。彼女はこのフランス貴族とともにパリやグシュタード、カップ・ダンティーブの旬なイベントに出没した。フランスのファッション誌『ロフィシェル』では2人を“ジェットセッターでも指折りのベストドレッサー”と称え、『タイム』誌は“この2人よりシックなカップルはパリ中を探してもいない”と書いた。

 しかし、ステファニアは1982年に起きた、パリの新聞曰く“今年最高にスノッブな強盗事件”を引き起こしてしまう。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 18
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