March 2020

THE APPLIANCE OF SCIENCE

サステナブルなスーツとは?

ラグジュアリー・テーラーリング業界にとって、サステナビリティは
善意の取り組みなのか、それともマーケティング上の自慢話なのか?
THE RAKEがその答えを探しに行く……
text ryan thompson photography kim lang & rian davidson
issue10

ヴィターレ・バルベリス・カノニコの生地を使い、ギーブス&ホークスで仕立てたスーツを着てご機嫌の弊誌デジタルエディター、ライアン・トンプソン。

 ラグジュアリー・ファッション業界を15年以上レポートしてきたが、いま話題のサステナビリティほど業界全体を巻き込むテーマは初めてだ。ご存じの通り、この言葉は以前よりはるかに重要な意味を持つようになった。ファッションハウスのCEOにとって、サステナビリティは何が何でも取り組まねばならない課題だ。

 ラグジュアリー・ファッションを消費および擁護する人間として、私もこのテーマについていろいろと考えてきた。だが、実際にショッピングをするとき、私はサステナビリティについてどれほど深く考察してきただろう? 正直なところ、十分ではなかった。深く考えているブランドもほとんどないと思っていた。

工場の水で魚が泳ぐ そんな私の考えが変わったのは、世界有数の規模と質を誇る工場を訪れる機会に恵まれたときだ。その工場は、イタリアの布地の名産地、ビエッラのプラトリヴェーロという小さな町にある。

 クリエイティブディレクター、フランチェスコ・バルベリス・カノニコ氏にお会いする前に、私は曲がりくねったチェルボ河のほとりを探検しながらビエッラを巡った。この河の水は世界でも指折りの軟らかさのため、織物の製造に最適だ。だが、私が発見したのはサステナビリティとは正反対のものだった。

 2008年のリーマンショック以降、ビエッラ地域では300以上の工場が閉鎖された。河沿いには、かつて工場であったレンガ造りの建物が、荒廃し、がらんどうの状態で立っている。こうした工場は、事業自体のサステナビリティに投資できなかった。非効率でアンバランスな生産をしていたため、金融危機に対応できなかったのだ。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 32
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