SKIN DEEP

海底に200年間眠る幻のロシアン・レザー

April 2015

text james dowling
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海底に200年間沈んでいたため、素晴らしい積み荷の多くは修復不能なまでに傷んでしまったが、トナカイの革は、洗浄し、乾燥させ、柔らかくすることにより、もとの美しさを取り戻した。

幻のレシピが生んだトナカイ革 かつて、ロシアの皮なめし職人は、柳とポプラの樹皮から作った混合液を穴に入れ、そこに皮を1週間以上浸した。次に皮を洗浄し、松と柳の樹皮から作った混合液の中に16日間浸けた。こすり洗い、すすぎ、乾燥を経た皮を、続いて製革工が加工した。

 製革工は、カバノキから取れる油とアザラシ油を混ぜたものを塗り、皮を柔らかくすると、板にくぎで固定して休ませたあと、染色した。染色の際は、白檀とコチニール(コチニールカイガラムシから得られる色素で、かつてはカンパリを赤く着色するために使用された)の調合物をブラシで表面に塗って乾燥させる作業を、求められる色調になるまで繰り返した。その後、カバノキとアザラシの油をさらに塗り、色止めにトラガカントゴムの薄い層を施した。

 こうしてできた革を台に載せ、重りをつけた溝のある鋼鉄製シリンダーをその上で転がすことで、表面に細かい平行線の模様をつけた。そして革を60度回転させ、もう一度同じ作業をすることにより、ダイヤモンド形の網目模様に仕上げたのだ。この模様は、独特の香りと並ぶ、この革の特徴だ。すべての手順を終えるには、12~18カ月の期間がかかった。

 1973年に発見されたとき、革はきつく束ねられ、硬い草を編んで作ったマットに包まれていた。長年のうちに、マットの大部分が分解していたために(なお、もうひとつの積み荷である麻は、完全に溶解していた)、外側の革の多くは状態が悪く、触れると濡れた紙のように破れるものもあった。それでも、まだ使用できる革がいくつか回収された。この革を一体どうすべきか、それが問題だった。

 そのとき、潜水チームのリーダー、イアン・スケルトンの友人が、ロビン・スネルソンという人物が革小物を作って販売していることを思い出した。200年も海に沈んでいた革を蘇らせる方法を、果たしてロビン氏は見つけられたのだろうか?

 ロビン氏は、その革を真水に数日間浸し、塩と黒い泥を取り除くと、フレームの上で乾燥させた。続いて、かつてロシアの皮なめし職人が使ったものと同じ材料をいくつか用意し、革を処理した。この処理によって、革から失われていた“あるもの”が蘇った。そう、あの独特の香りである。状態を安定させたおかげで、この革は使用できるようになったが、その量は使いきれないほど多かった。ロビン氏は同業者にこの革を販売し始めた。

本記事は2015年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 02

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