SKIN DEEP
海底に200年間眠る幻のロシアン・レザー
April 2015
海底に200年間沈んでいたため、素晴らしい積み荷の多くは修復不能なまでに傷んでしまったが、トナカイの革は、洗浄し、乾燥させ、柔らかくすることにより、もとの美しさを取り戻した。
トナカイの革、クレバリーへ すると、あるアメリカ人の客が、ロンドン旅行の途中で、ジョン・カネーラ氏にこの革について話をした。カネーラ氏は当時、ニュー&リングウッド(New &Lingwood)でジョージ・クレバリー氏とともに働いていたため、この話は自然と彼にも伝わった。
クレバリー氏は、ロシア船の積み荷に心を惹きつけられた。同業者であった父親から、かつてのロシアの革の驚くべき特性について聞いたことがあったからだ。そして彼自身も、シューメーカーのトゥーシェックで38年間働いた経験があった。110年以上営業したトゥーシェックでは、この素材が間違いなく頻繁に用いられていたはずだ。
そんなわけで、カネーラ氏とクレバリー氏は、ファルマスまで革の状態を確かめに行った。そして2~3枚の革を持ち帰り、ニュー&リングウッドで何足かの靴を制作した。この素材で靴が作られるのは、実に1世紀以上ぶりのことであった(このとき作られた靴のうち、1足はチャールズ皇太子に献上された)。
大きな需要があることを確信したクレバリー氏は、修復された革を定期的に購入することを約束した。握手のみで結ばれたこの契約によって、クレバリー氏(および彼の後継者であるジョージ・グラスゴー氏とジョン・カネーラ氏)は、ロビン氏が修復した革の中から、希望するものを最初に選べることになった。
今日でも、カネーラ氏とグラスゴー氏はコーンウォールを訪れ、店で使う革を選んでいるが、供給量は徐々に減少している。イアン・スケルトン(沈没船を発見したダイバーで、チャールズ皇太子の布告によって革の回収を許可されている唯一の人物)が、4年前に潜水をやめたからだ。しかし、今日なお革の40%は、プリマス湾の厚い泥の下で、空気に触れることなく無事に眠っていると推定されている。
本記事は2015年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 02