April 2015

SKIN DEEP

海底に200年間眠る幻のロシアン・レザー

text james dowling
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海底に200年間沈んでいたため、素晴らしい積み荷の多くは修復不能なまでに傷んでしまったが、トナカイの革は、洗浄し、乾燥させ、柔らかくすることにより、もとの美しさを取り戻した。

2世紀の眠りから覚めた宝 メッタ・カタリーナ号が沈没してから約200年後の1973年、ブリティッシュ・サブ・アクア・クラブのプリマス湾支部に所属する考古学チームが、船で使われる号鐘を偶然発見した。

 号鐘には、船名や船種、建造年を示す“Die Frau MettaCatharina de Flensburg Brigantine Anno 1782”という銘が刻まれていた。沈没船はコーンウォール側のプリマス湾に沈んでいたため、その所有権はコーンウォール公領にあった。

 幸運なことに、コーンウォール公爵であるチャールズ皇太子殿下がブリティッシュ・サブ・アクア・クラブの総裁も務めていたことから、号鐘は同クラブに譲られた。殿下はさらに、考古学チームに海底の賃借権を与え、沈没船の詳しい調査を後押しした。

 チームは船内で驚くべき量の革を発見し、検査のためにサンプルを回収した。目的は炭疽菌の痕跡が含まれていないかを調べることだったが、それに加え、どの動物に由来する革かも調べることになった。検査結果は、いずれの点でも喜ばしいものだった。

 革には長期間生存する細菌はいなかった。そして素材は間違いなくトナカイの皮であり、ロシア式の処理が施されていることが明らかになったのだ。

“He welcomed wet days because on them he could stay at home without pangs of conscience and spend the afternoon with white of egg and a glue-pot, patching up the Russia leather of some battered quarto.”
—Of Human Bondage, W. Somerset Maugham

“彼は雨の日が好きだった。雨の日には後ろめたさを感じることなく午後の間ずっと家に籠り、
卵白とにかわ鍋を使って、くたびれた四つ折り判の本に使われている
ロシアン・レザーを修復できたからだ。”
――ウィリアム・サマセット・モーム『人間の絆』

本記事は2015年1月24日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 02

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