March 2017

Miller’s tale

ロバート・ミラー:
DFS創業者、その野心

text james medd
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マリー・シャンタルとロバート。ロンドンの大聖堂で行われた結婚式にて(1995年)

 フィーニーが自らのルーツであるアイルランド問題に力を入れるようになり、賛否両論があるものの、IRAと関わりの深いシン・フェイン党(アイルランド統一を主張する政党)を支援している一方で、ミラーはその仇敵である英国の貴族階級との関わりを深めるために金を使ってきた。

 1998年には、ライチョウが生息する湿原に囲まれた「ガンナーサイド」という英国ヨークシャーの邸宅を購入した。ここは14,500ヘクタールという英国屈指の広大な敷地を持つ大邸宅で、ミラーと友人たちはイギリス貴族の道楽であるハンティングを心ゆくまで楽しむことができる。一時の気まぐれどころか、ミラーは英国趣味に夢中になり、市民権まで得ている。

 ロンドンでは新聞のゴシップ欄でおなじみのパーティピープル―タキやビスマルクからプレイボーイのアーパッド・ブッソン、往年のロックスターであるボブ・ゲルドフやロジャー・テイラーといった面々―とともに時間を過ごす。

 オックスフォードシャーにあるパウロス王太子夫妻の邸宅で2013年に催されたミラーの80歳の誕生パーティには、こうしたパーティ仲間をはじめとする400人のゲストが出席。特設会場はこの日のためにインゴ・マウラーが手がけた光の彫刻に彩られ、ダイアナ・ロスがパフォーマンスを披露した。

どこまでも続く情熱 ミラーはセーリングにも情熱を注いでいる。彼の船は豪華なクルーザーではなく、トップレベルのヨットレースや外洋航海にも対応できるレース艇だ。2003年には、愛艇の「マリチャIV」号で、初めて7日以内で大西洋を横断した。

 2005年には同じヨットのキャプテンとしてロレックス・トランスアトランティック・チャレンジに優勝し、悪天候にもかかわらず、1世紀も破られなかった西回り航路の記録を塗り替えた。彼は「ヨットもクルーもボロボロだった」とコメントしている。

 ミラーにとってのセーリングは引退した億万長者の趣味ではなく、さらなるステイタスを得るための手段である。大西洋横断ほどステイタス性の高いスポーツは他にないのだ(ライチョウの狩猟はおそらく二番手だろう)。

 ミラーは昔から負けず嫌いであったし、これまでの勝負で常に成功してきた。免税ビジネスの世界を50年にわたって牛耳ってきたが、それだけでは満足できず、世界の上流階級に仲間入りしたいと望んだ。そしてそれをやり遂げた。金があればなんでもできる、それが彼の生き方だったのだ。

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マーガレット・サッチャーや実業家のデヴィッド・タンと同席した香港でのディナー(1980年代)

THE RAKE JAPAN EDITION issue 14
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