Friday, March 17th, 2017

Miller’s tale
DFS創業者、その野心

マサチューセッツ州にある小さな町で生まれたセールスマンの息子、
ロバート・ミラーは、免税店チェーンで巨万の富を得たが、ビジネスの成功だけでは満足しなかった。
ミラーは世界の上流階級への仲間入りを望み、貴族的なライフスタイルへ憧れた。
そして知略をはり巡らし、3人娘の政略結婚によって、ついに自らのドリームを実現したという。
text james medd

対照的な億万長者

 ミラーとフィーニーは30年にわたっておおむね良好な関係を続けた後、意見の食い違いから1996年に袂を分かった。免税市場が下り坂に差し掛かっていると感じたフィーニーは自らの持ち株をラグジュアリーコングロマリットのLVMHグループに売却し、2社の少数株主もこれに追随した。ミラーはこの売却に大反対し、自らの持ち分を売ろうとはしなかった。彼にとって、これは金よりもステイタスの問題だったのである。
「DFSが私の会社ではなくなってしまう。私の子供じゃなくなってしまうんだ」と彼は語った。そして、さらに事態は悪化する。フィーニーは160億ドル以上を手にしたが、頑なに反対したミラーは、アジアの経済危機による事業の急激な低迷に直面することになった。
 時を同じくして、彼はLVMHグループの総裁ベルナール・アルノーと衝突。「DFSは“中核事業ではない”」というアルノーの発言にミラーが激怒し、裁判沙汰に至ったのだ。ミラーはアルノーが「取得した企業の資産をLVMHの利益のため に利用し、株主の利益を考えていない」として告訴した。
 この騒ぎはミラーの心身に多大な悪影響をもたらしたが、DFSが一定の独立性を維持し、中国市場が拡大したことで、問題は解決した。いまやミラーは両社を「最高のパートナー」と称しており、アルノーはミラーの娘ピアを、LVMHが擁するセフォラのアンバサダーに起用したこともある。
 ミラーと袂を分かったフィーニーは資産や収入のほとんどを自らの慈善団体であるジ・アトランティック・フィランソロピーにつぎ込んでいった。彼は世界中の億万長者に、自らの富を良いことに使うように説き、ビル・ゲイツ財団に大きな影響を与えたといわれている。
 フィーニーが自らのルーツであるアイルランド問題に力を入れるようになり、賛否両論があるものの、IRAと関わりの深いシン・フェイン党(アイルランド統一を主張する政党)を支援している一方で、ミラーはその仇敵である英国の貴族階級との関わりを深めるために金を使ってきた。
 1998年には、ライチョウが生息する湿原に囲まれた「ガンナーサイド」という英国ヨークシャーの邸宅を購入した。ここは14,500ヘクタールという英国屈指の広大な敷地を持つ大邸宅で、ミラーと友人たちはイギリス貴族の道楽であるハンティングを心ゆくまで楽しむことができる。一時の気まぐれどころか、ミラーは英国趣味に夢中になり、市民権まで得ている。
 ロンドンでは新聞のゴシップ欄でおなじみのパーティピープル―タキやビス
マルクからプレイボーイのアーパッド・ブッソン、往年のロックスターであるボブ・ゲルドフやロジャー・テイラーといった面々―とともに時間を過ごす。
 オックスフォードシャーにあるパウロス王太子夫妻の邸宅で2013年に催されたミラーの80歳の誕生パーティには、こうしたパーティ仲間をはじめとする400人のゲストが出席。特設会場はこの日のためにインゴ・マウラーが手がけた光の彫刻に彩られ、ダイアナ・ロスがパフォーマンスを披露した。

どこまでも続く情熱

 ミラーはセーリングにも情熱を注いでいる。彼の船は豪華なクルーザーではなく、トップレベルのヨットレースや外洋航海にも対応できるレース艇だ。2003年には、愛艇の「マリチャIV」号で、初めて7日以内で大西洋を横断した。
 2005年には同じヨットのキャプテンとしてロレックス・トランスアトランティック・チャレンジに優勝し、悪天候にもかかわらず、1世紀も破られなかった西回り航路の記録を塗り替えた。彼は「ヨットもクルーもボロボロだった」とコメントしている。
 ミラーにとってのセーリングは引退した億万長者の趣味ではなく、さらなるステイタスを得るための手段である。大西洋横断ほどステイタス性の高いスポーツは他にないのだ(ライチョウの狩猟はおそらく二番手だろう)。
 ミラーは昔から負けず嫌いであったし、これまでの勝負で常に成功してきた。免税ビジネスの世界を50年にわたって牛耳ってきたが、それだけでは満足できず、世界の上流階級に仲間入りしたいと望んだ。そしてそれをやり遂げた。金があればなんでもできる、それが彼の生き方だったのだ。

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ピア、アレクサンドラ、マリー・シャンタルのミラー3姉妹。ダイアン・フォン・ファステンバーグのショーにて(1997年)

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マリー・シャンタルとロバート。ロンドンの大聖堂で行われた結婚式にて(1995年)

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マーガレット・サッチャーや実業家のデヴィッド・タンと同席した香港でのディナー(1980年代)

THE RAKE JAPAN EDITION issue 14
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