May 2023

BECAUSE CRAFTSMANSHIP COUNTS

藤田雄宏が勧める、今オーダーすべき職人 04:SARTORIA SALABIANCA

韓国人チェ氏のフィレンツェで輝く仕立て
text yuko fujita
photography giulio grisendi

Hojun Choi / チェ・ホジュン1982年、ソウル生まれ。2008年に渡伊し、2009年よりリヴェラーノ&リヴェラーノでサルト修業に入る。サルトとしての長い下積み期間を経て、2017年、フィレンツェに工房を構え、「サルトリア サラビアンカ」を始動。

 チェ・ホジュン氏はソウルの大学を卒業後も勉強を続けてきたなかで、次第にサルトの仕事に興味をもつようになった。特に、控えめなエレガンスが感じられるフィレンツェの服に強く惹かれたという。サルトの職を目指すなら、本場で本気で学びたい。強い思いを胸に秘め、2008年、イタリアに渡った。ミラノのパターン学校「セコリ」で学びながら、何度もフィレンツェに通ってはアントニオ・リヴェラーノ氏を訪ねた。本気の思いが通じたのか、2009年から晴れてリヴェラーノ&リヴェラーノで修業することとなった。

 師匠はアントニオ・リヴェラーノ氏とフランチェスコ・グイーダ氏の偉大なふたりのサルトだ。合わせて8年間も直に学べたことは、チェ氏にとって何よりの財産となっている。若い人たちからも常に何かを吸収しようとするリヴェラーノ氏からは、たくさんの美しいものに触れなさいと言われ続けてきた。グイーダ氏からはたくさんの技術を学び、サルトという職業は一生をかけて情熱を捧げられるもので、それがどれだけ幸せなことかを言葉からではなく生きざまから教えられた。

 常に五感を研ぎ澄ませてきた。フィレンツェは、そしてイタリアは、美しさの宝庫だった。オペラ歌手の日本人の奥様と出かけるオペラコンサート、60年代のイタリアのカンツォーネ、愛するトト(アントニオ・デ・クルティス)の映画の衣装、屋根のない美術館と形容される美しいフィレンツェの街並み、伝統的なトスカーナの郷土料理。多くの美しいものに触れるなかで、自身が美しいと思えるスタイルが確立されていった。そんなチェ氏の服は、細部にまで美意識がちりばめられ、それらが美しい調和を奏でている。写真からでも、それは十分に伝わってくる。素晴らしいぞ、サラビアンカ!

フィレンツェの伝統的な仕立て技法を踏襲しながら、アジア人の身体に合うよう肩幅は広めに取られてあり、ゴージラインの幅・高さ・角度も、全体の中で絶妙なバランスで溶け込んでいる。袖付けの仕上げがなんと品よくエレガントなことか。ウェルトポケットも控えめで、パッチポケットの直線的なラインもモダンな印象を与えている。

ビスポークシューメーカーの谷 明氏(左)とサイクの村田博行氏(右)は、チェ・ホジュン氏(中)と仲がよく、ともにサラビアンカで仕立てたスーツを着て友情出演。「情熱をもって仕事に取り組んでいて、安心して任せられます」と谷氏。村田氏はご実家の壺草苑で染めた天然藍染コットンを持ち込んで仕立ててもらったスーツを着用。「ホジュンさんは自分のスタイルを確立していてセンスもいい。とても素敵な服に仕立ててくれました」と村田氏。

1951年にピッティ ウォモがスタートした、パラッツォ ピッティの「サラ ビアンカ」から名を取った。ピッティ ウォモがそこから世界に知られる存在になったように、自分もそこから成長していきたいという思いが込められている。ところでチェ氏が揃えている生地は、コントラストが抑えられたフィレンツェらしいテイストのもので統一されている。

DATA

年3回来日してトランクショーを開催。1着目の仮縫いは2回あり、納期は1年~。2着目からは仮縫いは1回で、納期は8カ月~。スーツ¥410,000~、ジャケット¥320,000~、トラウザーズ¥90,000~、コート¥420,000~。
Via dei Rustici 5,Firenze info@sartoriasalabianca.com

本記事は2023年1月25日発売号にて掲載されたものです。
価格等が変更になっている場合がございます。あらかじめご了承ください。

THE RAKE JAPAN EDITION ISSUE 50

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