September 2020

EÜRO STAR

ダニエル・ブリュール
ドイツ芸術界が誇る若き俳優

photography simon emmett fashion and art direction sarah ann murray
shot on location at kontikistudios.com

「アメリカでアクセントを理解してもらえなかったのは、唯一もどかしかった。あのアクセントを習得するには長い時間がかかったからね。けれど、役が必要としていたオーストリア人的な生意気さや尊大さを出せたから、とても誇りに思っているんだ。だからアメリカで“おや、あんな話し方はしないぞ”と言われるのは、こたえるよ」

 特徴的な歯やアクセントのおかげで、ブリュールはレース界のレジェンドとそっくりになった。だが、ラウダのカリスマ性に乏しいイメージを考慮すると、スクリーン上で興味深い男に見せたブリュールの力量は、特筆に値する。他者を大いに見下し、尊大で、共感力に欠けるラウダの姿はなぜか魅力的だった。観客は、1976年のニュルブルクリンクでのクラッシュ以降のラウダの歩みだけでなく、ブリュール自身の魅力に夢中になったのだ。作品は彼のための物語だった。

 ブリュールはその演技により、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合(SAG)賞、英国アカデミー賞、および放送映画批評家協会賞で最優秀助演男優賞にノミネートされた。アカデミー賞の候補に挙がらなかったのには呆れたものだが、いずれのノミネートも受賞にはつながらなかった。この経験はブリュールにとってつらいものだったという。

共感した悪役の葛藤 ブリュールは今年、マーベルの『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』に敵役として登場した。彼が扮するヘルムート・ジモは、マーベル作品では珍しいタイプで、いつもの悪役とは違う。何らかの強大な力を持ち、大げさな衣装に身を包む異世界人でないのだ。もっと普通っぽい人物で、悪知恵、小細工、策略のみを駆使して地球最大級のヒーローたちと対決する。ジモは心をかき乱すような危険な雰囲気を醸し出しているのだが、役作りやインスピレーションについてブリュールの話を聞いているうちに、すべて合点がいった。「作中で起きることは、僕が演じた人物のせいなんだ」と彼は言う。

本記事は2017年1月25日発売号にて掲載されたものです。
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THE RAKE JAPAN EDITION issue 14

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