THE MESSIAH OF DYSTOPIA

アンドリュー・リンカーン インタビュー
“演技”という名の探検

August 2021

text wei koh
photography ruven afanador
fashion and art direction sarah ann murray

「元々よく知らなかったんだ。初めて会ったとき、僕はタイムズ紙を脇に抱えていった。少しでもまともな男に見せようとね。でもこの作戦は間違っていた。彼は今まで会った誰より、知的で魅力的な人間だったんだ。型破りなんてもんじゃない。付き合い始めの頃、彼は僕を自宅に招いて銃のコレクションを見せてきたんだからね(笑)。僕の娘をデートに誘う若い男が来たら、ぜひそのやり方を盗みたいよ」

手に入れた巨大な名声 リンカーン自身はどんな人間なのか。THE RAKEがコッツウォルズの彼の自宅近くでのインタビューを決めたとき、彼は「どの電車に乗るか教えてくれたら、迎えに行くよ」と言ってくれた。身長約196センチ、体重108キロ以上という常に食欲旺盛なエディターが、案の定お腹がすいたと言い出すと、すぐにチーズバーガーを出してくれた。アンドリュー・リンカーンとはそういう人間だ。

 最も成功を収めたテレビ番組で主役を務めているのにもかかわらず、礼儀正しく寛大で、他人が必要としているものを敏感に察知し、極端なほどにまともだ。決して天狗になることはない。

「この作品は僕らのものじゃない。明らかにファンのものだ。初めてコミックのイベントに参加したとき、ドラマの予告編が流れたんだけど、30秒経たないうちに壁の外までどよめきが聞こえてきた。心の底から不安だったよ。でもそのとき、このドラマはもはや僕らのものではないと気づかされた。こんなに頼もしく、こだわりを持ったファンがいて、原作のストーリーが忠実に伝えられることを望んでいる。彼らはドラマも気に入ってくれたみたいで、本当に良かったよ」

 職人のような古典的な俳優という軌道から、テレビの大スターへと瞬く間にブレイクしたことについて、リンカーンは異議を唱える。

「この仕事で、クレイジーなことができるのは、幸運なこと。プレミア上映イベントには1万6000人ものファンが集まってくれて、常軌を逸していたけど貴重な経験になったよ。シーズン1でも確かな手応えを感じていたのに、その後も人気は加速し続けてる。それに海外でも大ヒット。完全に異常事態だよ(笑)。休暇でコスタリカに行ったら、空港に着いた途端、全国紙に載っちゃうしね」

THE RAKE JAPAN EDITION issue11掲載記事
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