EVAN KWEE: THE ARCHITECT OF CHANGE

楽園の創造主:エヴァン・クウィー インタビュー

May 2022

環境に配慮した開発は、ラグジュアリーになるはずがないという考え方は、まさに前時代的だ。

ルールを塗り替えるパイオニアのひとりがエヴァン・クウィーである。

モルディブの人工島ファリ諸島に位置する最新・最高のホテル&リゾート“パティナ”の仕掛け人だ。

 

 

text wei koh

 

 

 

Evan Kwee/エヴァン・クウィー

1977年生まれ。シンガポールに拠点をおく、彼のファミリーが経営する巨大コングロマリット、ポンティアック ランド グループにて、デザイン&ホスピタリティのチーフを担当。カペラ ホテルズ&リゾーツを副社長として世界有数のブランドに育て上げた。パティナリゾートは彼の新しい挑戦である。

 

 

 

環境にインパクトを与えない方法で建築されたパティナ モルディブ ファリ アイランズでは、単なるラグジュアリーリゾートを超えた、心も魂も癒やされる滞在を体験することができる。

 

 

 

 エヴァン・クウィーは2021年、モルディブに世界で一番新しく、一番ラグジュアリーなリゾートを出現させた。環礁内の複数の人工島からなるこの場所は、現段階で190のヴィラと20のスタジオで構成されている。環境への負荷が少ない方法で建設されたことも話題となっている。

 

 これはクウィーにとって初めての挑戦ではない。昨年、『Travel + Leisure 』誌の読者投票で、世界第2位のホテルブランドに選ばれたカペラ ホテルズ&リゾーツを再構築したことで、彼はすでに先見の明があると評価された。バリ島のカペラ ウブドは同誌で世界最高のホテルに選ばれた。彼のファミリーが経営する高級不動産開発コングロマリット、ポンティアック ランドグループで、デザインとホスピタリティのチーフを務めるクウィーに、彼のビジョンの全体像をインタビューした。

 

 ラグジュアリー・トラベラーの嗜好に大きな変化はありましたか? リゾートの美しさだけでなく、倫理観も重要になってきたのでしょうか?

 

「その通りです。しかしその変化は、まだ途上です。何年も前からサステナブルな旅を求める旅行者はいますが、マーケットの中では、まだ小さなセグメントです。でも、こういった人々は確実に増えており、近い将来、重要な顧客層になるでしょう。次世代の旅とは、五感を満足させるだけでなく、心や魂をも満足させるものです。サステナビリティとラグジュアリーは、共存できるのです」

 

 

ビーチに面し、火照った体を癒やしてくれるオープン・バー“Veri Bar”ではさまざまなカクテルを楽しむことができる。

 

 

 

 パティナを作るきっかけは何だったのでしょうか?

 

「5年ほど前、シンガポールにある4つのホテルだけで、200万本以上のペットボトルが消費されていることを知り愕然としました。その時、私は何かを変えなければならないと思ったのです。私は、カペラホテルズ&リゾーツのすべてのホテルで、使い捨てのペットボトルの撤去を開始し、パティナの構想を温め始めました」

 

 パティナにとって最も重要なミッションは何ですか?

 

「パティナ ホテルズ&リゾーツが地球にとってよい変化をもたらす存在になれば、成功だと思います。環境によい影響を与えつつ、ラグジュアリーな方法で、寝たり、食べたり、飲んだり、買い物をしたりできることを世界に示したいのです」

 

 ユニークで新しい体験を、具体的に説明していただけますか?

 

「運動、栄養、バイオを組み合わせたオーダーメイドのプログラムを提供しています。体の活性を高め、免疫力を増加させます。サウンド、タッチ、テクノロジーを通して“癒やし”を提供します」

 

 

ノルウェーの素材をモダン・ジャパニーズの手法で調理するという“Koen”では唯一無二のダイニング体験を提供している。

 

 

 

 今日、リゾートはどのようなニーズに合わせなければならないのでしょうか?

 

「“選択できること”はラグジュアリーです。ファリ諸島は平穏であり、同時に刺激的でもあります。滞在中は気分に応じて、このふたつの状態を行き来できます。マリーナ・ビレッジとビーチ・クラブではアートや音楽、ウェルネス、料理などの著名人とコラボしたダイナミックな体験ができます。一方で、エッセンシャリストのパーソナルなサービスによってヴィラの中で癒やされることもできます。パティナ、カペラ、リッツ・カールトンという、3つのワールドクラスのブランドが船で10分以内の場所にあり“選択”できることも重要です」

 

 モルディブ初のパティナをファリ諸島に設置した理由は?

 

「モルディブはパティナブランドを立ち上げるのに最適な場所だと思いました。地球上で最も美しい場所のひとつであり、また地球の脆さ・儚さを伝えるのに、これほどふさわしい場所はありません。2021年に完成したファリ諸島は、コロナ後の観光業のケーススタディであり、グローバル・ツーリズムの最注目スポットといえるでしょう」

 

 

プライベートプールを擁する客室から海を望む。すべての建材はできる限り現地で調達され、生分解可能、再利用可能なものが使われている。

 

 

 

 建築家のマルシオ・コーガン氏が選択した新しいプレハブ工法とは?

 

「新しいプレハブ工法は、建築中のエネルギー消費量を18%削減することができました。これは、300軒の住宅の1年間の電力に相当します。また建材は地元で調達された、生分解性があって、再利用可能なものをできる限り使用しました。建設現場ではペットボトルは禁止され、全従業員に詰め替え可能な水筒が配布されました」

 

 他島で伐採される予定だった25,000本の木が、ファリ諸島に移植された理由は?

 

「この方法であれば、森林を伐採して破壊することなく、効果的に再利用できると思いました。モルディブでは木々の手入れが最大の産業のひとつになっているので、地域社会にとっても有益な方法だと思いました」

 

 レストラン“Roots”では、植物由来の食材を使用し、廃棄物ゼロのキッチンを実現したと聞きましたが?

 

「この島の料理のコンセプトは、“頭から尻尾まで”、“根から葉まで”というものです。この島で栽培できないものはすべて輸入しなければならず、廃棄物は処理しなければなりません。ですから、現地で栽培して食材として利用できるものが多ければ多いほどいいのです。Rootsは、味に妥協することなく、エシカルに生産された食べ物を求める食通のために作られました」

 

 なぜ植物由来ということにこだわるのですか?

 

「健康と環境への意識が高い方々からのリクエストに応えたのです。彼らは動物を傷つけることなく、資源も守りたいと考えています。Rootsのシェフは、旬の食材を大切にするスローフードの哲学のもと、ビタミンや栄養を逃がさない古典的かつ革新的な調理法を用いて、体にも心にも地球にも優しい料理を提供しています」

 

 

17あるレストランのひとつ“Brasa”では、自然から得られる農産物中心のメニューを提供している。パタゴニアの地方料理にインスパイアされたもので、直火料理が中心となっている。

 

 

 

 12歳以下の子供たちに無料のダイビング体験を提供しているのはなぜですか?

 

「未来のトラベラーたちにサステナブルな価値観を育んでもらうためです。顧客の子供たちへの無料のダイビングレッスンに加えて、地元モルディブの子供たちにもPADIダイビング免許の獲得プログラムを無料で提供しています」

 

 リモートで仕事をし、ノマドのようにさまざまなところに滞在をする新時代のゲストも想定していると聞きましたが?

 

「ファリ諸島は、ひとつの島、ひとつのホテルに長く滞在しすぎて、飽き飽きしてしまう人のために作られました。ここでは4つの島を行き来することができ、17の飲食施設、マリーナ、体験型アート、大都市にあるようなショップが用意されています。

 

 将来的にはレジデンスも建設される予定です。ファリ諸島はインド洋に浮かぶコミュニティを目指しているのです」

 

 アート体験の例として、アメリカのアーティスト、ジェームズ・タレルと製作したパビリオンについて教えてください。

 

「タレルのアートは、言葉で表現するのはとても難しく、体験しないとわからないものです。サンスクリット語で“不死”を意味する“Amarta”と呼ばれているパビリオンにぜひいらしてください」

 

 ソーラーパワーを使ったキッズクラブでは何ができますか?

 

「サステナビリティについて楽しく学べる機会を提供しています。例えば、子供向けのコンピューター・モデリング・プログラムでは、リサイクル材をレーザーでカットし、子供たちが自らの手でおもちゃを制作することができます」

 

 

植物レストラン“Roots”では、植物由来の食材を使用し、廃棄物ゼロのキッチンを採用している。

 

 

 

 モルディブの地域社会に、どのような影響を与えたいと考えていますか?

 

 「パティナの利益の1%は、モルディブの女性や子どもたちをはじめ、さまざまなチャリティに使われています。また、人材への投資にも力を入れています。3つのホテルの従業員が集まるファリ・キャンパスでは、ローザンヌホテル学校と共同で、職業訓練プログラムを開始します」

 

 THE RAKEとの出会いと、ファリ諸島のショップのキュレーションを私たちに依頼した理由を教えてください。

 

「THE RAKEに興味を持ったのは、一過性のファッションではなく、時代を超えたスタイルに焦点を当てていたからです。ファッションとは、ある日突然、時代に合わなくなるものですが、それは私たちの世代のフィロソフィーとは相容れません。スタイルとは、どれだけ時間が経っても通用するもので、スーツやシャツ、帽子は、年を重ねるごとに古臭くなるのではなく、エイジングによって、さらに美しくなるべきです」

 

 MRS.RAKEブティックのブランドは、女性が設立し、運営するものを多くしたいという指示はなぜですか?

 

「サステナブルな活動とともに、女性のエンパワーメントを支持しているからです」

 

 

 

 

 

 THE RAKEのショップには、大手ファッションブランドではなく、家族経営の職人が作った服が並べられています。なぜこのようなチョイスをしたのでしょうか?

 

「ゲストが視野を広げて、小さな独立したブランドを発見するということ自体が、素敵なバケーション体験の一部になると思ったからです。大切にしたのは、長く着られる服を選ぶことでした。モルディブにぴったりなのはもちろん、帰ってからもゲストと一緒に成長していくアイテムです。私は家に帰ったら捨ててしまうようなものを売りたいとは思いません」

 

 一方、パネライ、ブルガリ、ショパールなど、素晴らしい高級時計をラインナップしていますね。ファリ諸島のショップにおいて、時計はどのような位置づけですか?

 

「時計はいつまでも使い続けることができ、世代を超えて受け継がれていく耐久性を持っています。その意味で、ファリ諸島の価値観を反映する素晴らしいカテゴリーです。思い出の品として、最適なアイテムなのです。われわれが扱う時計の90%は機械式で、腕につけているだけで動力を蓄え、エネルギーを消費しません」

 

 

ファリ諸島のMRS.RAKEのショップ。タラ・マシュー、アレキサンダー クラフト モンテカルロ、ハットオブケインなどのブランドが並べられている。

 

 

 

 あなたの指揮のもと、カペラは『Travel + Leisure』誌のベストホテルブランドで第2位に選ばれました。これを達成するために、どのような戦略が必要でしたか?

 

「カペラ ホテルズ&リゾーツのスタッフは、ラグジュアリーに対するお客様の嗜好が大きく変化したことを実感しています。富裕層のトラベラーは、豪華な体験以上のものを求めています。旅先の文化に浸ることができる本物の体験です。ここに重点をおいたことが、ブランドの価値をアップさせたのだと思います」

 

  インドネシア、バリ島のカペラ ウブドは、『Travel + Leisure 』誌で世界のベストホテル1位に選ばれました。その理由は?

 

「当初、このプロジェクトは100室を擁するホテルとしてスタートしましたが、自然への介入を最小限にすることが正しいと判断し、建設中に1本の木も伐採しないよう23室に縮小。著名な建築家ビル・ベンズリー氏によってテント式のリトリートとなりました。ゲストには、手つかずの自然環境をスタイリッシュな空間の中でお楽しみいただけます。インドネシアの文化遺産の体験も用意しました。儀式を見たり、伝統薬の作り方を学んだり、滞在は発見に満ちたものとなります。これが世界のベストホテルに選ばれた理由だと思います」

 

 

 

モルディブの最高級リゾートファリ諸島とは?

2021年にオープンした、モルディブの北マレ環礁に位置する人工島。マレ国際空港からスピードボートで45分の距離にある。モルディブでは原則、1アイランド1ホテルであり、複数の島からなるファリ諸島にはザ・リッツ・カールトンモルディブ ファリ アイランズ、カペラ モルディブ、パティナ モルディブ ファリ アイランズの3つのホテルがある。THE RAKEおよびMRS.RAKEの実店舗も同時オープンし、従来のリゾートを超えた体験を提供している。