GEORGES KERN, Breitling - CEO —Interview—

ブライトリング急成長の立役者、CEO ジョージ・カーン インタビュー

May 2024

ブライトリングの各コレクションの再編とモデルチェンジを推進したCEOのジョージ・カーン。ブランドを急成長させた彼の手腕に迫る。

 

 

text scott harper

 

 

Georges Kern/ジョージ・カーン

1965年、ドイツ・デュッセルドルフ生まれ。フランス人の母とドイツ人の父を持つ。大学を卒業後、食品会社、タグ・ホイヤーなどを経て、2000年にリシュモンに入社。A.ランゲ&ゾーネ、ジャガー・ルクルト、IWCで重責を担った後、2002年にIWCのCEOとなる。2017年、ブライトリングのCEOに就任。©REMY STEINER

 

 

 

 ジョージ・カーンは、時計業界きっての辣腕経営者だ。2017年のCEO就任後、業務を合理化し、eコマース戦略を刷新。サステナビリティへの取り組みに適切な指示を出し、ブライトリングを需要に追いつかないほどの企業へと成長させた。

 

 彼はフランス・ストラスブールで政治学を学んだ後、スイス・サンクトガレン大学で経営学の学位を取得。卒業後、食品会社を経て時計業界へ進み、タグ・ホイヤーでキャリアを積んだ。2000年にリシュモンに入社し、数々の重責を担った後、36歳(当時最年少)でIWCの指揮を執ることになった。そして2017年、ブライトリングのCEOに就任し、同社の株主にもなる。一方、時計業界の仕事の合間を縫って、同名小説を原作とするフランス映画『Mon Chien Stupide(原題)』(2019年)の製作にも携わっている。

 

 見事なその手腕は、年を追うごとに発揮されている。慎重で漸進的な進化より大胆な改革のほうが優れていることを証明する、彼独自の哲学を語ってもらった。

 

 

アベンジャー B01 クロノグラフ 44

航空分野と強いつながりを持つブライトリングの人気コレクション「アベンジャー」がリニューアル。44mmのクロノグラフモデルは、COSC公認クロノメーターで約70時間のパワーリザーブを誇るマニュファクチュール キャリバー01を搭載。カラーダイヤルはブラックのほか、写真のブルー、グリーン、サンドカラーを展開。ミリタリーに由来する独特のカラーリングだ。自動巻き、SSケース、44mm。

 

 

 

 ブライトリングの再編を図った当初、多くの人が「ブランドをつぶしてしまうだろう」と言いました。時計業界の意見は厳しい。それはいいことです。しかし私はCEOであり、会社に投資もしています。ブランドのために正しいと信じる決断をし、将来を見据えなければなりません。当時のブライトリングは、ややマッチョで派手なパイロットウォッチが中心でした。現在はコンパクトになり、プレミエやトップタイムのような歴史を継承したモデルから、アベンジャーやナビタイマーといった現代的なモデルまであります。

 

 批判されたとき、いつもチームにこう言っていました。「批判が正しいのか、私たちが正しいのか、それは誰にもわからない。でも、成功すれば批判される余地はない。サッカーに例えるなら、とにかくゴールを決めて得点を重ねて、試合に勝とう。勝てば、沈黙が訪れる」。そして私たちは勝利を手にしています。

 

 ブライトリングは、適切な存在にならなければなりませんでした。大きく、大胆で、派手でした。ブランドは何年も成長していなかった。そこで、スタイルをより明確に定義しました。ブティック、製品、広告にそれを見ることができます。カジュアルであること、親しみやすいこと、持続可能であることなど、私たちの価値観を明確に再定義しました。その過程で製品ラインも整理してきましたが、常にブランドの歴史に基づいています。

 

 特に新たな発明はしていません、既にあったものを取り入れただけ。それをしてこなかったのは愚かでした。ブライトリングは他社が羨むようなヘリテージをたくさん持っていたのですから。モダンにアレンジし、現代の顧客にとって魅力的な方法でパッケージし直したのです。

 

 時計ブランドを経営することは、映画製作と同じで、ストーリーテリングです。時計業界にいるとプロデューサーやディレクター、俳優と交流することがよくあります。彼らと話すと、手法は違いますが、似ていると感じます。感情をつくり出すこと、そして物事をうまく伝えられるかどうか。物語に矛盾がないか、考えながら進めます。だから私が初めて映画作りに携わったときは、脚本を2年かけて書きました。ブランドのストーリーを語るのも同じで、どれだけ上手く作り、伝えられるか。アイデアをいかに上手く取り入れられるか。とても似ているんです。

 

 業界内で競合を考える癖をやめなければなりません。顧客はマンチェスター・シティの試合を観戦するし、美術館に行ったりクルマを買ったりします。つまり、観光業や葉巻業界、コンサート業界など、あらゆるものと競争している。他業界も含めて考えなければならないのです。

 

 ダイバーズウォッチをダイビングに使っている人はいますか? ほとんどいないですよね。今どき誰が、タキメーターや耐磁ケースを頼りにしているでしょうか? これらは1940年代、50年代、60年代に目的を持って作られた機能です。今日ではもはやあまり役立っていませんが、それでも重要な役割を担っています。パイロットウォッチやダイバーズウォッチにつながるルックスや夢を追い求めるからこそ、人々はその機能を求めるのです。

 

 

プレミエ B21 クロノグラフ トゥールビヨン 42 ウィリー・ブライトリング

1943年に発表された「プレミエ」コレクションの、トゥールビヨンモデル。ムーブメント製造会社、ラ・ジュー・ペレ社と共同開発したB21ムーブメントを搭載。ブライトリング創業家3代の人物にちなんだバリエーションがあり、プラチナ製ケースにアドミラルブルーダイヤルとブラックアリゲーターストラップを組み合わせた写真のモデルは、3代目のウィリー・ブライトリングのバージョン。自動巻き、Ptケース、42mm。

 

 

 

 アベンジャーの新モデルは、これまでよりもはるかに洗練され、シックになりました。リュウズ、プッシャー、仕上げ、カラー、新素材など、多くのディテールに手を入れました。まさに進化といえるものです。アベンジャーがタフな時計であることに変わりはありませんが、ブランドのスポーツシックな魅力にフィットできたと思います。ブライトリングの価値観やデザインコード、表現方法はここ数年で変わりました。アベンジャーのリニューアルにあたり、この新しいスタイルに合わせる必要がありました。

 

 ニーズに応えるのではなく、ニーズをつくり出すのです。これはまったく違うこと。私が以前携わっていた、動きの早い消費財といった業界では“ニーズに応える”必要がありましたが、ここでは“ニーズをつくる”べき。自らのスタイルを定義し、売り込んでいく必要があるのです。

 

 今日の人々というのは、自身のスタイルやアイデンティティ、ライフスタイルを購入しています。私が時計業界に入った頃の基本的な要素は、ムーブメントとデザイン、そしてブランドでした。ですが、今はもう時計で時間を読むことはない。つまり、腕につけるのは芸術の一部であり、自己認識の一部であり、ライフスタイルの一部なのです。

 

 ムーブメントが高品質であることは当然のことです。エルメスのバッグを買うとき、レザーの質を尋ねたりしないでしょう?我々の価格帯の時計を買うときに、ムーブメントが高品質であることは、当然のことでなければなりません。

 

 この業界には200年も前から変わっていないものもありますが、だからといって埃をかぶって時代遅れになる必要はありません。250年変わっていない技術の製品であっても、それを伝えるためには現代の方法を使わなければなりません。(IWCのポジションに任命してくれた)フランコ・コローニは、よき助言者でした。心から愛していました。当初、演劇評論家だった彼は、とても教養のある人でした。ブランドとはどうあるべきか、彼から多くのことを学びました。一方、(元IWC CEOの)ギュンター・ブリュームラインはまったく違うタイプ。エンジニアでありテクニシャンであり、規律正しいドイツ人らしい紳士でした。彼と働いたのは、彼が癌で亡くなるまでの8カ月ほどだけ。心の広い素敵な人でした。親切で賢い人たちと仕事をともにすることができて、私は本当に幸運でした。

 

 

トップタイム B01 トライアンフ

イギリスのモーターサイクルブランド、トライアンフとのコラボレーションモデル。1951年のトライアンフ·サンダーバード6Tや、1970年代のトップタイムのレアモデル(Ref.815)に使用されたアイスブルーをダイヤルに採用し、蝶ネクタイをモチーフにした独特のサテン仕上げを施した。トランスパレント・ケースバックからは、スポーティな仕上げの自社製キャリバー01が駆動する様子を確認できる。自動巻き、SSケース、41mm。

 

 

 

 オープンな目で人生を歩まなければなりません。私はファッション、自動車産業、芸術に注目していますし、SNSの意見にも耳を傾けています。また、年に一度、インフルエンサー、ジャーナリスト、コレクター、時計の専門家を集めて意見交換をする場を設けています。さまざまなトピック、アイデアについて議論し、そのフィードバックを大切にしています。意見はときに挑発的で考えさせられます。クロノマットのリニューアルについてはふたつの案がありました。既存のデザインに基づいた案と、ルーロー・ブレスレットを復活させる案。私は後者の案に半信半疑でしたが、ボードメンバーの95%が支持したため、復活が決まったのです。

 

 新しい「アベンジャーB01 クロノグラフ 44」のグリーンダイヤルは、私が軍用ジープを撮った写真をデザイナーに送ったことから実現しました。デザイナーは、「クール。誰も使っていない色」と言いました。ブルーも同じで、ミリタリーに由来しています。あらゆることに目を向け、インスピレーションを得ています。

 

 私たちはポジティブな雰囲気のブランドです。カラーリングにこだわっています。あるライターは私たちを、シチュエーションコメディにちなんで、「『ハッピーデイズ』的なブランド」と表現しました。その通りだと思います。保守的なブランドに代わる、クールでリラックスした選択肢でありたいと考えています。

 

 ギュンター・ブリュームラインが『緩慢の発見』という本をくれました。35歳くらいだった私はとても野心的で、彼からいつも「ゆっくり、ゆっくり」と言われていました。当時はその理由が理解できなかった。不思議なことに、決断が迅速なときもあれば、時間がかかるときもあります。そして面白いことに、今は当時よりずっと経験を積んでいますが、人の意見にもっと敏感になりました。成熟したからだと思います。明確な意見は常に持っていますが、正しい反論があれば、柔軟に耳を傾けるようにしています。

 

 私たちのターゲット層のうち、新しいブライトリングを知っているのはわずか10パーセントに過ぎないことが調査からわかっています。つまり90%は知らない。しかし、この90%に新製品や広告をご覧いただくと、80%が「すごくいいね。欲しいよ」と言ってくれます。ブランド認知度を20%、30%、40%と増やせたらどうなるでしょうか。それを達成するには、一貫性を保ち、常に正鵠(せいこく)を射ることが重要です。

 

 物事を複雑にしすぎたり、知的にしすぎたりする必要はありません。純粋に、「かっこいい時計だね」と人々に言ってもらいたいのです。