THE MESSIAH OF DYSTOPIA

アンドリュー・リンカーン インタビュー
“演技”という名の探検

August 2021

text wei koh
photography ruven afanador
fashion and art direction sarah ann murray

「リック・グライムズは環境の犠牲者というだけ。ある種の状況やストレスのもとに置かれたら、誰だってどうなるかわからないってこと。最近の大衆主義のパラダイムとなっているアンチヒーローよりはるかに面白いことなんだ」

 このドラマが正真正銘のヒット作品となったことは紛れもない事実だ。視聴率ランキングのトップに君臨し、数々の賞に輝いた。リンカーンに『ウォーキング・デッド』のメインテーマと、このドラマの何が多くの人の共感を呼ぶのか尋ねた。

「原始的で、根本的なことだ。すべての道徳規範や社会的マナーとは切り離され、自分という人間だけが残る。生きるか死ぬかの状況で問題となるのは、自分がどんな人間なのかということだ。自分自身と向き合わざるをえない。かつてないほど人と人とがつながっている時代になったけど、一方でかつてないほど孤独な時代だとも思うね。このドラマが持つ家族的な側面が人々に受け入れられたんだと思う。大きな集合体の一部になったような感覚を味わえるんだ」

『ウォーキング・デッド』は、不完全で過ちを犯してしまうようなリーダー像を抵抗なく生み出した。明らかに新時代の作品といえる。

「リックの好きなところは、不完全なリーダーだということ。彼は失敗する。それでも、自分を立て直して違う方法を試みる。そしてまた失敗する。それを可能にするのが、並外れた回復力だ。それこそが人を惹きつけるポイントなんだ」

巧妙に作られたトロイの木馬『ウォーキング・デッド』について感情的に観るほど、その多層的なストーリーの多様性と複雑性に気づくだろう。物語は次から次へと進んでいく。

THE RAKE JAPAN EDITION issue11掲載記事
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