WAR ON SEXISM

戦時下の性差別
―勇敢な女性たち―

March 2020

女性は何度となく、しかも長きにわたって歴史から締め出されてきた。
その傾向は特に戦時下において顕著である。第二次世界大戦中、
勇敢な貢献をした彼女たちの英雄的精神と犠牲的行為に光を当てる。
text josh sims

アメリカ空軍女性パイロット部隊(略称WASP)。1940年、デラウェア州の空軍基地にて。

 歴史上、特に戦時中には、正当な評価を受けていない人物が山ほどいる。パットンやモンゴメリー、アイゼンハワー、ブラッドレー、ロンメル、ジューコフといった司令官の名は記録に残されたが、影の立役者も大勢いた。戦争は男の仕事というのが通説だが、もちろん現実はまるで違う。英国陸軍はようやく前線任務に女性兵士を受け入れるようになったが、当時は数え切れないほどの女性が、医療従事者や空軍司令部の管制官、暗号解読者などの重要な仕事に就いていたのだ。

 それから70年以上もの時が経ち、昨年のメリー・エリスの訃報をきっかけに彼女たちの功績が称えられた。エリスは航空輸送補助隊として英国空軍の前線基地へ軍用機を届けた女性パイロットのうちの数少ない存命者のひとりだった。1939年に女性が軍用機を操縦することは認められていなかったが、戦況が切迫したことにより翌年に当局は考えを変えた。彼女のような小さな女性たちが爆撃機を操縦し着陸させると、男性たちは信じられない様子で仰天したという。

 戦時中は富と名声があっても、力量に見合った評価を得ることは難しかった。ヘディ・ラマーもそんな女性のひとり。彼女は映画スターとして活躍した美女で、スクリーン上で初めて全裸でオーガズムを演じたことで有名だ。しかしその先の人生は全く違うものだった。当時兵器製造業者の男性と結婚していた彼女は、ディナーの席でしばしば夫と軍事技術に関わる科学者や専門家たちとのビジネスの話に耳を傾け静かに過ごしていた。この経験が彼女に応用科学分野への興味をもたらし、科学的才能を開花させたのだ。

 やがて彼女は女優業を一旦離れ、発明家として周波数ホッピングシステムを開発する。このシステムは、自軍の信号に対する第三者からの妨害を防いで魚雷の照準を支援するもので、現代のWi-Fi技術につながるほどの大発明であった。彼女はこの発明の特許を取得したが、アメリカ海軍はこのアイデアを却下した。世界一の美女と謳われ、ディズニーが誇る白雪姫の顔のインスピレーションにもなったほどの“女性”の発明だったからだ。技術がようやく実装されたのは1960年代。そして彼女の功績が広く認められるまでには、さらに長い時間がかかった。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 28
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