THE ART OF HAPPINESS
画家バルテュスと節子夫人の幸せな関係
January 2017
ロシニエールの自宅、グラン・シャレで、節子夫人と(1998年)
「他人の意見ですし、彼らにだってそんなくだらない意見を持つ権利がありますから。小児性愛? 事実でなければ、何の問題があるでしょう。バルテュスにはまったく別のビジョンがあります」
かつてアリストテレスは、芸術の目的とは“ものの外見ではなく、内側にある意味を表現することだ”と述べた。バルテュスの作品はエロティカの神々しさと真理をはっきりと示すものであり、禁欲的な考えから生まれる懸念によってその真理を覆い隠すべきではない、というのが節子夫人の信念だ。
バルテュスの作品群が持つ扇情的なニュアンスに対してどんな意見があろうとも、作品の輝きと複雑な感情表現の素晴らしさは揺るぎない。バルテュスは具象芸術の最後の巨匠といえるだろう。彼の遺産はルーブルやテート、メトロポリタン美術館のみならず、アニェッリ家やニアルコス家のようなプライベートコレクションでも輝き続けている。
自身も芸術家である節子夫人は、ユネスコ平和芸術家を務めるとともに、バルテュス財団を主宰し、彼のアトリエやバルテュス・チャペル(ドキュメンタリー映画や、写真・手紙などの複製を展示する記念館)を保存している。夫に対する夫人の敬意は、今もなお強いようだ。彼の死から15年が経った今、彼の遺したものは彼女にとっての大きな生きがいとなっている。
つまりこの結婚は、“どうせ年齢差のせいで破局を迎えるだろう”という嘲笑や予想を、今でも大きく打ち破っているのだ。両者の激しい個性から生じる重圧により、芸術家カップルは必ず崩壊するという説を、バルテュス夫妻の物語は鮮やかに覆している。
節子夫人と娘の春美と(1990年)。