THE MAN WITH THE HORN : MILES DAVIS

ホーンを持つ男:マイルス・デイヴィス

June 2022

text ben st george

『マイルストーンズ』(1958年)のジャケット。グリーンのボタンダウン・シャツに細身のトラウザーズ。デイヴィスはあえてエスタブリッシュメントのアイテムを身に着けることによって、体制側を皮肉ったのだという。

 音楽と同じように、デイヴィスはスタイルに関しても変幻自在だった。キャリアの初期には、デューク・エリントンのような派手な衣装と一線を画すために、東海岸のアイビーリーグのスタイルを取り入れた。スリムなテーラード、フラットフロントのトラウザーズ、ボタンダウン・シャツなどだ。

 1958年にアルバム『マイルストーンズ』がリリースされると、そのジャケットで彼が着ていたグリーンのボタンダウン・シャツは、ロンドン中の若者の間で大流行した。その中には、未来のローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツも含まれていた。60年代半ばにマイルス・デイヴィス・クインテットの一員として共演していたハービー・ハンコックによれば、デイヴィスはどこへ行っても、常に最もヒップな男だったという。

「動き方、歩き方、演奏時の立ち姿、ホーンから出る音、乗っているクルマなど、すべてがスタイリッシュだった。それが彼のパーソナリティの一部だったのだ」

 新たなクリエイティビティが花開いた『ビッチェズ・ブリュー』の時期には、彼の個人的なスタイルにも独特の変化が見られた。英国のデザイナー、ティモシー・エベレストは、当時のデイヴィスのスタイルについて、ガーディアン紙に次のように語っている。

「厳格な保守主義の時代を経て、マイルス・デイヴィスは再び自由に装うようになったのです。1970年代はおかしな時代です。当時の流行は、歴史的な背景を反映しながらも、すべてが誇張されていました。しかし私は、この時代のデイヴィスの着こなしが好きです。それは機能不全のテーラーリングのようなものですね」

タキシードに身を包むデイヴィス(1960年1月)。

THE RAKE JAPAN EDITION issue 44
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